2005年から準備を始めて、日本軍による南京攻略70周年にあたる2007年に公開されるだろうと言われていた陸川監督の映画『南京!南京!(City of Life and Death)』(中国共産党機関紙「人民日報」のニュースサイト人民網日本語版の特集ページ)は、中華人民共和国建国60周年にあたる2009年の4月にようやく中国で劇場上映が開始されました。
陸川監督が脚本に4年もの時間を費やしてしまったり、その脚本の中国当局(国家ラジオテレビ映画総局)による審査にも多くの時間を費やしてしまったり、撮影が始まってから陸川監督が盲腸炎にかかって3回も入院したりしたため、製作が大幅に遅延したためです。 ![]() 「ただ死者数の論争にはあまり意味を感じない。だから映画では死者数には触れない」とインタビュー(産経ニュースの福島記者のブログより)で語っていた陸川監督だったのに、いきなり冒頭の献辞で「30万人の犠牲者」の字幕が現われたときには、嫌な予感がしました。ただ映画を観終わったときに、これは中国当局のセンサーシップ(検閲)を通すための譲歩の一つだったのだろうな、と納得することができました。 前半部分は、1937年12月の日本軍南京入城、監督敢えて自分の姓を与えた<陸>という架空の兵士とその仲間たちの抵抗戦、そして大勢の中国人捕虜の焼殺・射殺など、静と動を巧みに織り交ぜることによってリアリティと迫力が浮き立つ戦争映画という印象。後半に入るにつれて、日本軍下士官<角川正雄>、南京安全区国際委員会委員長でドイツ人の<ジョン・ラーベ>、その中国人秘書である<唐氏>とその家族、安全区の中国人女性リーダー・姜先生、陸兵士とともに抗戦し日本軍の捕虜となったものの銃殺の中で生き残った少年<小豆>の精神的葛藤に焦点をあてたヒューマン・ストーリーへと変化していきます。 その中の中心人物は、日本人俳優・中泉英雄が演ずる日本軍下士官<角川正雄>と言って良いでしょう。繰り返される殺戮や非人間的な生存の継続に違和感を深めるようになった<角川>は、日本軍に連行されていく中国人女性<姜先生>の願いを聞き入れて射殺してあげます。これは恐らく自身の強い意志に基づいた最初で最後の殺人だったのでしょう。そして、やはり捕虜となった少年<小豆>をこっそりと逃がしてやり、自らは拳銃で命を絶ってしまいます。 日中戦争を描いた中国映画において、<角川>は「日本鬼子」とはかけ離れた異質な日本人登場人物です。多くの映画では人間としての心情を描くことを避けてきた日本軍兵士ですが、<角川>は田舎の母を想ったり、慰安所の日本人女性に恋をしたり、殺戮や生と死の意味に悩み苦しんだりするのです。血と埃とで満ちた映画の中で、<角川>が拳銃自殺するラスト・シーンでは白いたんぽぽの冠毛がモノクロ映像を引き立て美しい最期を飾っています。まるで、角川の死を美化しているかのように。 「鳥獣にも劣る日本兵の中にも、角川のような良い人間がいたものだ」 中国の映画レビューサイト・時光網にも、このような書き込みが多く寄せられていました。 <角川>の上官である伊田は中国における典型的な「日本鬼子」だったのかもしれませんが、<唐氏>を処刑するときの表情は、陸川監督が<伊田>をすら典型的な「日本鬼子」に仕立て上げることを躊躇っていた、と考えてしまいます。 「日本鬼子」を人間的に表現してしまったこの映画には、当然の如く中国の人たちから厳しい意見が寄せられました。ただし、批判は日本人兵士の描き方より、<ジョン・ラーベ>の描き方や映画のテーマそのものに関するもののほうが多かったようです。 陸川監督はかつてのインタビューで「『シンドラーのリスト 日本人兵士の横暴にただおろおろし、難民を取り残して南京を立ち去ってしまう『南京!南京!』での<ラーベ>の描かれ方が、納得できなかったのでしょう。 陸川監督は「第三国のラーベはシンドラーにはなれない」と言う趣旨の発言をしています。『南京!南京!』のシンドラーはラーベではなく、むしろ日本人兵士<角川>なのかも知れません。 映画のテーマに関する陸川監督の言動は、時と場合によってころころ変わっているようです。 当局からの許可も出ず、クランクインもできていなかった、2007年初頭の産経新聞福島記者によるインタビューでは、「人知、人間性の真相」がテーマと語っています。いっぽう、2009年春の映画公開時には「この作品は屈辱ではなく中国人の栄光を語るものだ」と述べています(人民網・日本語版)。 確かに映画の前半は、<陸兵士>たちの勇敢な抗戦や「中国は永遠に不滅」と叫ぶ捕虜たちなど、"中国人の栄光"っぽいシーンが無いわけではありません。ところが、抵抗を試みた中国人は皆死んでしまう矛盾。「栄光がどこに描かれているのだ、描かれているのは中国人の屈辱だけではないか」などと言う罵りが、中国語のBBSに書き込まれています。 前半と後半でトーンもテーマも異なっているように思える『南京!南京!』。中国の作家・王朔 (ワン・シュオ)は陸川監督に「前半を半分カットすれば世界的な名作だ」と言ったそうです。ただ私自身は月並みながら、英語のタイトルにも示されているように「生と死」がこの映画の全編を通したテーマになっているのだろうと思います。 捕虜となり辱めを受けて"屈辱的な生"を持続させていくより、<角川>に"栄光の死"を求めた<姜先生>、生き続けることが苦悩の連続かも知れないと悟った<角川>が敢えて生き伸べさせようとした<小豆>。そして<角川>自身は死を選んぶことになる。死ぬことと生き続けること、殺されることと生き延びること、大勢の死、ほんの小さな命、一人の少年の解放、希望、命の軽さ、或いは重さ。いまもいき続けている小豆や唐夫人のお腹の中の新しい生命....。 前半の戦闘や殺戮のシーンにリアリティを感じさせるからこそ、後半が虚構性の高い"物語"に思えてしまうのでしょうが、ラストシーンの小豆の笑顔と「今も生きている」と言う字幕は、どの国籍の観衆であっても胸を熱くするようなヒューマニティに訴えかけています。 登場人物個々の内面まで精緻に表現仕切れていない印象を持った人でも、全編モノクロで記録映画のように観通した人でも、タンポポの綿毛が美しいラストシーンによって、人類に不変のヒューマニティを描いたフィクション映画であることを認識するのではないでしょうか。 少なくとも、『南京!南京!』は冒頭の献辞を除いて中国共産党のプロパガンダ映画にならずに済んでますし、少なくとも"反日映画"では無く"反戦映画"に属する作品です。前作の『ココリシ』(拙ブログ参照)の直線的な力強さと比較すると、陸川監督が欲張りすぎたのか、いろんなものを詰め込みすぎた印象はぬぐいきれませんが、決して失敗作に属するものではありません。 日本では配給元が見つからず公開の予定が無いと聞きますが、偏狭な政治的配慮など気にせず、ぜひメジャー公開して欲しいものです。こうした映画が中国で創られ、公開されている、ということによって、現代の中国社会への誤解がほんの少しだけ解けるかも知れません。 #
by pandanokuni
| 2009-08-09 03:26
| ひまネタ
田原(Tian Yuan)の『水の彼方 ~Double Mono~
![]() 1985年生まれとは言え、16歳でHopscotch(跳房子)と言うバンドでデビューし、2年後には香港映画でメインキャストを演じ、著名な映画賞をも受賞した田原(Tian Yuan)を、「八〇后(中国の80年代生まれの若者)」の典型として語ることは無理があると思いますし、典型的な「八〇后」が田原(Tian Yuan)を支持しているか、というのも疑問です。 <女の子たちのおしゃべりの話題>といえば<テレビドラマ、新しいダイエット法、オープンしたばかりのレストラン、S.H.E.、心理テスト><男の子はもう少し単純で、バスケかサッカーかゲームのことだけ>。 『水の彼方 ~Double Mono~ 』の冒頭で語られる高校二年生の放課後の喧騒こそ、典型的なその時代の「八〇后」でしょう。 映画『タイタニック』のディカプリオとウィンスレットの真似をして、船先に立ち手を広げセリーヌ・ディオンの『マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン』を歌うのも、私がイメージする典型的な「八〇后」です。「ニルヴァーナ」や岩井俊二の映画『スワロウテイル』ですら、私の理解している「八〇后」のイメージからみると少し尖っています。 私に言わせれば、田原(Tian Yuan)は八〇后のサブカルチャーそのものです。 冒頭の引用されている清代の怪奇小説『聊斎志異』の中の短編『水莽草』は田原(Tian Yuan)自身が「日本語版あとがき」で述べているとおり、同世代人にとってポピュラーなものではありません。 ビートジェネレーションのユダヤ系アメリカ人作家・アレン・ギンズバーグの作品『リアリティ・サンドウィッチズ』にしても「八〇后」のバイブルとは言えないでしょう。出典を理解してからでは無いと読み進められないかも知れません。 作品を更に難解にしている要因は、青春(心境)小説と幻想小説とのボーダレスな交錯と、突然の白昼夢、それに伴う時制や人称の転換にあると思います。もちろんこうした手法により、主人公・陳言の内面をよりデリケートでリッチに表現することができたのだと思います。 泉京鹿さんが翻訳に取り組み始めて、2年近い歳月を経て、ようやく日本語版として完成させた苦労が分かる気持ちがします。 原題『双生水莽』の一部となっている<水莽草>。 主人公・陳言が日記に挟んでいる一本の根から二本の葉が伸びている水草が<双生水莽(双子の水莽草)>です。武漢市内を貫く長江(揚子江)の河岸の湿地で摘んだものなのです。 田原自身は日本語あとがきで、前述の怪奇小説『聊斎志異』の短編『水莽草』の物語を田原自身の青春時代と結び付けています。小説の中でも、主人公・陳言が<周波数>の合う仲間にお気に入りの物語として『水莽草』を語って聞かせたています。水莽草を食べて水莽鬼(亡霊)になり、好いてくれたオトコを身代わりにしてでも現実世界に帰るべきか葛藤しているのが陳言なのか、『水の彼方』を書いている田原自身なのか、こうした二重性が『水の彼方』の中で、作者・田原と主人公・陳言との関係をより複雑なものにしています。 幸いにも田原本人にこの件について尋ねる機会がありましたが、「この作品は私自身のイメージから飛び出した言葉の物語」だとお答えいただきました。短編『水莽草』の美少女水莽鬼(亡霊)三娘のように、小悪魔的で小悪女的だったのは、 『水の彼方 ~Double Mono~ 』を書いた時の田原自身だったのでしょう。 <水莽草>をはじめ、<(赤い)恐竜の泡><象魚(ピラルクー)><月の中の小人>などのファンタジックな比喩的象徴が、『水の彼方』の文学性を強くするとともに、難解にもさせています。 こうしたメタファーは、作品に詩的な生臭さ(泉さんは訳者あとがきで<生物学的匂い>と述べています)を醸し出させ、作者のセクシャリティ(女性性)をいっそう強く引き出しています。 いっぽうで、主人公・陳言の従兄弟との初恋のエピソードは、まるで綿矢りさの『蹴りたい背中』のように甘酸っぱい思春期小説風でもあり、舞台が北京に移ってから結末までの展開はスピーディかつ残酷で、ゴダールの『気狂いピエロ』を彷彿させてくれたりと、作者・田原或いは主人公・陳言の複数のパーソナリティが一つの小説に封じ込められている感じがします。 『水の彼方』は、田原自身の<周波数>にシンクロした<重力ポテンシャルエネルギー>によって自動記述された、幻想的青春小説と言えるでしょう。 1950年代アメリカの若者がサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』(『水の彼方』では主人公・陳言自身中学2年生のときに読んでいる)を愛読し、大人の世界を自分自身の価値観で拒み通そうとする主人公の少年に共感したように、また村上龍の『限りなく透明に近いブルー』が1970年代の日本のサブカルチャーから若者の普遍的な虚脱感(村上は中国語版の解説で<近代化の達成という大目標を成し遂げた後に残る「喪失感」と述べている>を書き記したように、『水の彼方 ~Double Mono~』は生活も風景も価値観も目まぐるしく変わる現代の中国を舞台に大人になる一歩手前の少女のモラトリアム体験を幻想的に描いたものだ、と私は勝手に解釈しています。 第二次大戦後栄華を尽くした1950年代のアメリカ、GMのシボレー、ライ麦畑。高度経済成長期の日本、学生運動、オイルショック、限りなく透明に近いブルー。 そして、21世紀初頭の中国。WTO加盟、富裕層の拡大、GMもTOYOTAも中国頼り。そうした中、次代を先んじて捉えているように行動しているように見えても、実は置いてけぼりにされている、若者のこころの内側。 『水の彼方 ~Double Mono~』は、若者のこころの中に突如現われる空隙を満たす液体の如く、世界中の若者に読み継がれていくことでしょう。新世紀エヴァンゲリオンのLC.Lみたいに、血生臭くけれと心地良く。 田原が音楽活動を本格的に再開するとのことで、たいへん楽しみにしています。 『水の彼方 ~Double Mono~』の主人公・陳言と同様、ニルヴァーナが大好きだったという田原ですが、最近はまさに八〇后世代に人気のミュージシャン羽泉や李宇春を手掛ける音楽プロデューサー張亜東と組んで音作りをしているようです。張亜東作曲による『50 Seconds From Now』は、ヴェルベット・アンダーグラウンドのニコを彷彿させるアンニュイなヴォーカルで、冒頭に述べた八〇后サブカルチャー路線を証明してくれた感じです。 田原は、私が大好きなテレビヴィジョンも大好きだそうで、『50 Seconds From Now』の歌詞やヴォーカルは詩人ギタリスト・トム・ヴァーレインの影響も伺われます。 この秋にはアルバムが完成するとのことで、こちらのほうも大きな話題になって欲しいと願っています。 ■関連リンク■ 田原ブログ(新浪博客) 八〇后(中国新人類・八〇后(バーリンホゥ)が日本経済の救世主になる! (洋泉社Biz) 水莽草(青空文庫・田中貢太郎訳) アレン・ギンズバーグ(ウィキペディア) スワロウテイル [DVD] 気狂いピエロ [DVD] 限りなく透明に近いブルー 新世紀エヴァンゲリオンのLC.L(ウィキペディア) 張亜東(C-POP) 『50 Seconds From Now』音楽ファイル直接リンク) ニコ(ウィキペディア) テレビヴィジョン(ウィキペディア) トム・ヴァーレイン(ウィキペディア) #
by pandanokuni
| 2009-07-31 22:03
| その他
08年小学館ドキュメンタリー大賞優秀賞を受賞した田中奈美さんの『北京陳情村
"中国の光と影"の「影」の部分として陳情村(或いは直訴村)を取り上げるメディアやジャーナリストは数多くありました。その大半は、共産党独裁政権による行政の腐敗や経済格差の拡大の縮図としてステレオタイプに伝えています。中国当局による人権弾圧の象徴として、民主化を圧し付けるためのエビデンスとして、陳情村(或いは直訴村)が、海外の人たちに認識されるようになりました。 しかし、敢えて不謹慎な言い方をすれば、『北京陳情村』に登場するクレイマーたちは、貧困の底で震え独裁政権の弾圧に怯える弱者でもなければ、行政の腐敗を暴き民主化を叫ぶヒーローやヒロインでもありません。私が中国で接してきた中国のフツーの人たちと差ほどかけ離れている存在とも思えません。他人の足をひっぱったり、自己主張が強かったり、話が突然飛躍したり、そういう人たちが日本と比べると圧倒的に多いと、私自身感じています。 『北京陳情村』でも触れていますが、陳情をビジネスとして捉えている人たちもいるのでしょう。中央からの評価が悪くならないように地方政府がお金で解決している例もあり、身近なクレイマー仲間がそこそこの解決金を手に入れた、というような噂を聞きつけ、達成可能な目的のため陳情活動をしているケースもあるのでしょう。そのためには、当局の手下にボゴボゴになるまで殴られるリスクも覚悟の上で。 もちろん、そうではないケースもありますが、田中さんの『北京陳情村』は、既製メディアやジャーナリストが築き上げてきた陳情(直訴)=共産党支配の暗部という幻想を見事にぶち破ってくれた作品だと思います。 『北京陳情村』の中のクレイマーたちの会話は、馮小剛の映画を髣髴させます。映画化するなら馮小剛に監督をお願いしてほしいものです(中国では上映許可は下りないでしょうけど)。 馮小剛監督の最新作『非誠勿擾(If you are the one)』(邦題は『誠実なおつきあいのできる方のみ』だそうです)は、中国ではハリウッド映画『赤壁』を凌ぎ、お正月映画のトップタイトルになりました。『天下無賊』『手機(Cell Phone)』など、彼の最近の作品は、中国の中国らしさ、或いは中国人の中国人らしさを、小気味良い会話で描いています。『北京陳情村』の登場人物で腐敗役人批判の替え歌集をCD化してビジネスにしようとした、プロデューサー・リー氏とシンガー・リュウさんのやり取りなんかは、馮小剛の社会派コメディーそのものという感じです。 『非誠勿擾(If you are the one)』は、いわゆる"婚活"の物語。40歳を過ぎた海外留学帰りの中年オヤジ・秦奮が、そろそろ生涯の伴侶を見つけようと、何人かの女性といわゆる"お見合い"をしていくお話です。前半の主人公・秦奮と投資家やお見合い相手の女性との会話がビミョーに噛み合わず、笑いを誘うのですが、私が知る中国人の多くはこんな感じです。 『非誠勿擾(If you are the one)』の主人公・秦奮を演じるのは、私が大好きな俳優・葛優。彼が演ずる中国人は、私がイメージする典型的な中国人と合致しています。お金持ちを演じようが、スリを演じようが、表層的で軽妙な言葉の連続とは裏腹の信念のようなものを感じさせ、それは私がこれまでに中国で出会った、例えばオフィスビルのトイレ掃除のオジサンだったり、タクシー運転手の兄ちゃんだったり、ネット企業のCEOだったり、タバコ屋のオヤジなどと何となく重なり合ってしまいます。 いまでは馮小剛映画に欠かせない俳優となった葛優ですが、私が最初に彼が演ずるのを観たのは張藝謀監督の『活きる(活著)』ででした。『活きる(活著)』は地主の放蕩息子・福貴(葛優演じる)が、40年代の内戦、50年代の大躍進、60年代の文化大革命という混乱の時代を活き抜くという長編の物語。中国当代きっての作家・余華の同名の小説が原作です。 その余華の最近の作品『兄弟 上 《文革篇》 『兄弟』は、李光頭と宋鋼という血のつながりの無い、けれども少年期を過ごした文革時代の極限体験によって固い絆で結ばれた兄弟の生涯を描いた長編で、『活きる(活著)』の主人公・福貴と『兄弟』の主人公たちは1ジェネレーションくらい離れているので、70年代以降の改革開放による中国の社会変化を読みほどくことができます。 上巻『兄弟 上 《文革篇》 下巻『兄弟 下 《開放経済篇》 自分のことしか考えない中国人のプロトタイプとも言える李光頭ではありましたが、それでも深層に苦を共にした兄弟・宋鋼への想いがあり、その噛み合わなさこそ、日本人がなかなか理解しにくい中国的なモノの一つなのだと納得しています。 翻訳の泉京華さんは、スラング満載で"噛み合わない"会話だらけの原作の魅力を、少しも損なうこと無くテンポ良い現代の日本語で楽しませることに成功しています。二巻で800ページを越える大作も、あっという間に楽しむことができるはずです。 中国関連の仕事をしている私にとって、李光頭のような人物は小説の中の創りモノではなく、何度も出くわしてしまうようなリアルな人物の典型例と言えます。李光頭は儲けた資産で宇宙に旅立つのですが、ビジネスで邪魔されて一文無しになっていたなら、北京の陳情村をうろつくような人物なのだと思います。 そして、それは『活きる(活著)』の主人公・福貴や『非誠勿擾(If you are the one)』に登場する何人かの人物(例えば冒頭に登場する投資家)にも重なり合います。 『兄弟』が映画化されるのなら、監督はやはり馮小剛で、葛優には李光頭を演じてもらいたいものです。 内輪話で恐縮ですが、私がボールド(スキンヘッド)にした最大の理由は、名優・葛優はボールドがお似合いだし、スキンヘッドの李光頭(光頭は禿げ頭のこと)も、いま仕事で頼りにせざるを得ない中国企業のスキンヘッドのCEOも、話が飛躍してかみ合わなく、自己主張や強くきっと自分本位なのだけども、心の深層のどこかに愛すべき何かを持っているから。 #
by pandanokuni
| 2009-03-08 19:21
| ひまネタ
かの国にも、インターネット違法及び不良情報告発センター(中国互聯網違法和不良信息挙報中心)なるものがあります。
ネット上の有害情報やウソの情報をユーザーから告発してもらって、改善・指導していく組織ですけど、強制力を持って、イケ無いサイトをクローズさせることもできます。 このセンターのウェブサイトには、強制的にクローズさせられたウェブサイトのリストが掲載されていますが、そのほとんどは詐欺とかエロとかによるものです。国家や共産党の悪口を伝えたなどと言う言うお咎めによって、クローズさせられたサイトは、"表向き"ありません。 それでは、どんなサイトを"表向き"に中国当局が公序良俗に反すると判断するのでしょうか? ![]() こんな風に、中国各地から偉い人が集まって会議を開き、公序良俗に反する「低俗」ウェブサイトを選び出すのです!! 09年の年初に、輝かしく"表向きに"「低俗」だと判定されたサイト(サイト内コンテンツ)は、以下33です。 1.Google China イメージ検索の結果表示にリンクされている低俗画像 2.百度貼Ba(BBS)、空間(ユーザーページ)、及び検索結果にリンクされている低俗画像 3.SINA"相柵(Photo)"コーナー及びブログの大量の低俗画像 4.SOHU"相柵(Photo)"コーナー、ブログ、及び画像BBSの大量の低俗画像 5.TENCENT(QQ)"相柵(Photo)"及び個人空間(My Space)の大量の低俗画像 6.NetEase"相柵(Photo)"の大量の低俗画像 7.Chinaren(SOHU傘下のポータルサイト「中国人」)画像投稿コーナーの大量の低俗画像 8.中捜BBSの大量の低俗画像 9.MOP"漂亮MM(カワイイいもうと)"コーナーの大量の低俗画像 10.天線(OpenV)に投稿された大量の低俗ムービー 11.第1視頻(VOD One)スポーツコーナーの大量低俗ムービー 12.天涯社区(SNS)Photo内の大量の低俗画像 13.UUU9(オンラインゲーム情報サイト)"美眉(キレイなお姉さん)"コーナーの大量の低俗写真 14.Yesky(IT情報サイト)"美女"、"アイドル写真"、"ユーザーセルフフォト"、及び"美女風情"コーナーの大量の低俗写真 15.合肥オンライン(安徽省のローカル・ポータルサイト)"美女画像貼付け"コーナーの大量の低俗画像 16.鉄血ネット(軍事情報・ミリタリー・サイト)"美眉(キレイなお姉さん)"コーナーの大量の低俗写真 17.T131.com(オンラインゲーム情報サイト)"美眉(キレイなお姉さん)"コーナーの大量の低俗写真 18.Sogua(音楽情報サイト)写真、クレイジー投稿写真、アイドルデータベース、及び"漂亮MM(カワイイいもうと)"コーナーの大量の低俗画像 19.快車網(オンラインゲーム情報サイト)の大量の低俗画像 20.MSN中国映画及び"フォトセレクション"コーナーの大量の低俗画像 21.TOM.COM娯楽、スポーツ、及び自動車コーナーの大量の卑猥で低俗な画像 22.空中網(Kon.net)娯楽及び写真コーナーの大量の低俗画像 23.西部網(陝西省のローカル・ポータルサイト)スポーツ写真コーナーの大量の低俗画像 24.My Space(聚友網)画像BBSの大量の低俗画像 25.易車会(自動車情報サイト)写真及び自動車フォトコーナーの大量の低俗画像 26.Gamer Sky(オンラインゲーム情報サイト)"ゲーム・シスター"コーナーの大量の低俗画像 27.52PK(オンラインゲーム情報サイト)"美女写真"コーナーの大量の低俗画像 28.POCO(画像コミュニティサイト)の大量の低俗画像 29.1713(SOHU傘下のオンラインゲーム情報サイト)"美眉(キレイなお姉さん)"コーナーの大量の低俗写真 30.hezon(動画投稿サイト)"美女"コーナーの大量の低俗ムービー 31.小虎在線(携帯SNS)ムービー検索の大量の低俗ムービー 32.泡泡門戸(携帯サイト)娯楽コーナーの大量の低俗画像 33.動感網(携帯サイト)"ビューティフォト"コーナーの大量の低俗画像 Google、MSN、My Spaceといった国際的なサイト、中国4大ポータルといわれる、QQ、SINA、SOHU、NetNease、そして百度(BAIDU)。中国の名立たるサイトはみんな低俗だと判定されてしまったわけです。動画投稿サイトやオンラインゲーム情報サイトなどに、萌え系の画像が掲載されていそうなのは理解できますが、自動車やIT情報サイトにまで"低俗"画像が蔓延していたのですね....。 こうして指摘されたサイトは、速やかに低俗なコンテンツを削除しなければなりません。ですから、これらのサイトを覗いてみても、お宝画像や映像を確認することはできないでしょう。 ![]() 例えば、このように「ユーザーの皆さま、現在「易車会」の写真コーナーはメンテナンスを行っております。もし自動車の写真をご覧になりたい方は以下のリンクをお訪ねください」みたいなメッセージが出て来てしまいます。 それにしても、自動車情報サイトの写真コーナーは、自動車の写真ではなくて低俗で卑猥な写真で満ちていたのでしょうね。 唯一、26.のGamer Skyだけキャシュで対象画像をゲットできました。 ![]() こんなものです。 一部の方が期待しそうな、低俗で卑猥な画像やムービー(例えば、日本の裏AVなど)は、ほぼ野放しのままになっていて(対応が追いつかないのでしょうけど)、中国のネットユーザーは気軽にアクセスできるのです。 もちろん、「08憲章(零八宪章)」(参考:msn産経ニュース)みたいなものは、"表向き"公序良俗を乱すものでないでしょうから、ネット上でも"表向き"は取締りの対象にもならないのです....。 百度(BAIDU)で検索してみても、"表向き"すっかり姿を消してしまいました....。 ![]() (「08憲章」の検索結果。トップは「国連憲章」。「08憲章」に関するサイトは表示されず....。) #
by pandanokuni
| 2009-01-09 20:10
| 社会ネタ
5月12日に四川省で大きな地震が発生して、5ヶ月近くになります。世界の目は一瞬四川へと注がれました。
けれどもその後、北京でオリンピックが開かれ、チベットや四川のことも引き続き注目していかなければならない、と気勢を張っていた"良心的な"メディアですら、オリンピックと言うお祭り報道の中で突出することはできなかったようです。 それから、日本の総理大臣の交代や、中国人初の宇宙遊泳のことや、75兆円にものぼる公的資金の投入をアメリカ議会が否決ことや、ニュースは次から次へと消費されていくわけです。福田康夫という、日本の一代前の首相のことが忘れ去られるように、四川での大災害も忘れられてしまう。でも特に、こうした災害には"つづき"があって、その"つづき"こそ、私たちが注視しなければならないものなのかもしれません。 モスケさんの『成都通信』は、所詮消費されてしまうだけのニュースや情報の脆さを補う一つの手段として、ご本人にはそのような意図が無かったかもしれないにせよ、私はインパクトを受けました。マグニチュードがいくつだった、死亡者は何万人だった...。でも、四川の大地震も含め、大災害の多くはその被害者にとって現在進行中の事象なのです。「あなたとは違います!!」いや、福田さんとは違うのです。 モスケさんのご了解をいただき、全文を転載させていただきます。
モスケさんは、かれこれ10年ほど前、私が北京で働いていた頃、知り合いました。その後、音信が途絶えていましたが、ふとしたキッカケから、成都でお仕事をしていることを知るとともに『モスケの(勝手に)成都通信』という不定期に発行されるメール通信の読者にもなったのでした。 #
by pandanokuni
| 2008-10-01 23:15
| 社会ネタ
|
お知らせ
[China-Japan Organism] 中国/北京関連情報の入口。"かの国"を知って、この国を強くしましょう!!。 [北京ビジネス最前線改め中国ビジネス後方基地] 北京駐在9年の経験から考え直してみる中国のお仕事。 [北京/東京重ね地図] 北京と東京の地図を同縮尺で重ねてみました。便利ですよ。 ブログパーツ
カテゴリ
最新のトラックバック
以前の記事
2012年 03月 2012年 02月 2010年 12月 2010年 10月 2010年 04月 2010年 03月 2010年 01月 2009年 12月 2009年 11月 2009年 08月 2009年 07月 2009年 03月 2009年 01月 2008年 10月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 05月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2007年 01月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 07月 2006年 06月 2006年 05月 2006年 04月 2006年 03月 2006年 02月 2006年 01月 2005年 12月 2005年 11月 2005年 10月 2005年 09月 2005年 08月 2005年 07月 2005年 06月 2005年 05月 2005年 04月 2005年 03月 2005年 02月 2005年 01月 2004年 12月 2004年 11月 2004年 10月 その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||