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中国における被害妄想は自虐史観と同じくらい前向きではないと思います。
日本企業が中国で叩かれると、反日感情が背景にあるとか中国当局の差し金であるとか、そういう視点で取り上げる日本のメディアって多いですね。
最近で言えばソニーのデジカメやSK-IIの品質問題。前者は初動対応の拙さから被害が広がったと思われますし、後者は厳密に言えば日本製造のアメリカ・ブランドであって、ユーザーなど一部の人たちを除いて日本との関わりを感じてなかったブランドです。どちらのケースも騒ぎの広がりに関するなら、中国人民の反日感情が後押ししたと考えられますが、端緒として中国政府関係の意図的な日本企業攻撃が存在したとは考えにくいのです。
かつてトヨタの雑誌広告が非難を浴びたことなども、「露骨な反日の動き」などと、日本メディアは報道しましたが、中国でバッシングを受けるのは何も日本企業の広告に限ったことではありません

このあたりのことについては、北京に在住のお二方が、私とほぼ同じようなご意見を述べられています。
*『中国消費者の権利意識と品質問題』 10月30日Nikkei BP Net(原 奈緒さん)
*『中国の消費意識:蔑視、差別、倫理観……CMの難しさ』10月29日中国情報局(女子大学院生まやさん)
*ソニーのデジカメやトヨタ雑誌広告など、中国における日本ブランドの悲劇については、お時間が許せば拙ブログ『北京ビジネス最前線改め中国ビジネス後方基地』をご覧ください。

中国で活動する日本企業や日本人がまったく不利を被っていない、などというつもりは毛頭ありません。結構"意地悪"されるものです。でも、日本企業や日本人だけが特別に標的になっていると断定するのはいかがなものでしょうか。特にビジネスの場合は、成功することを目指して進めているわけです。日本企業だから、日本ブランドだから、日本人だから、中国では不利なんだと嘆いていても、なかなか好転しないと思うのです。日本企業だから"意地悪"される、と考えるのは一種の被害妄想ではないでしょうか。

しかも、日本に戻ってきて気づいたのは、いわゆる日本人の自虐史観を否定する人たちやメディアのほうが、中国に対する被害妄想が強いと言うことです。
日本は欧米列国からアジアを解放するために努力した->中国に対して過剰な罪悪感を持つ必要は無い->日本はアジアに対して堂々とすべき、と言う論理が、中国は過去の日本の行いを未だに根に持っている->中国はいつまでも日本に意地悪し続ける、と言う論理と共存してしまっているのです。
直観的には、自虐論を否定する皆さんが被害妄想になるなんておかしな感じですが....。

私としては、日本(人)が中国(人)と関わり合う時、とりわけビジネス絡みの時には、過剰な自虐史観も被害妄想も良くないと思います。
特に被害妄想と言うのは、責任を第三者に押し付けるのに好都合な分だけ、前向きな対応ができないものです。なんでもかんでも『チャイナ・リスク』だから仕方ない、と片付けてしまうのは、いわゆる"土下座外交"と同じくらい非生産的で、私たち日本(人)のプラスにはならないと思うのです。被害を広げないため、前向きに解決していくためには、中国を悪者にしても仕方ありません。
中国では、日本企業だけではなく、欧米企業も国内企業もしばしば批判に曝されているのです。某巨大広告会社に頼み込めば不祥事さえも揉み消してもらえる、などと考えているような日本の大企業であっても、中国でその手は通用しませんから....。

安倍さんの訪中以来、日中の政治関係もほんわりと柔らかな雰囲気になってきたようですから、そのうち「中国だから仕方ない」なんて言い訳が通用しない時代が来るかもしれません。
裏を返せば、中国でうまく行くなら、世界中どこ行ってもやって行けるよ、がんばれ日本、日本人、と言いたい気持ちです。
# by pandanokuni | 2006-10-31 17:41 | 経済ネタ
メイドさんと寝室を共にしてはいけません by 北京市商工局。
北京などの都市部ではメイドさんを雇っている家庭が少なくありません。日本人など外国人の家庭だけではなく、現地の"小金持ち層"の家庭の多くでもメイドさんを雇っています。日本でメイドさんを雇うというと、大企業の社長の邸宅だとか資産家だとか、そういうご家庭をイメージしてしまいますが、中国の都市部では社長でなくともメイドさんを雇います。

例えば、夫婦ともども外資系企業や国内の優良企業にお勤めしていて、小さなお子さんがいらっしゃるお家など。
中国では夫婦共稼ぎが一般的です。出産後も多くの女性が働きます。ですから、両親が働いている間、誰かが子どもの面倒を見てあげなければなりません。たいていは、夫か妻の両親、つまりその子のおじいさんかおばあさんがお世話をします。おじいさんやおばあさんと同居する場合もありますが、最近の"小金持ち"の若い夫婦は別居を好む傾向にあります。この場合は、おじいさんやおばあさんが日中、息子や娘夫婦のお家に通って、孫の面倒を見たりします。けれども、地方出身者同士が結婚したりすると、こうは行きません。田舎からおじいさん・おばあさんを呼び寄せるケースもあるようですが、経済的にある程度余裕がある夫婦の場合は、メイドさんを雇うのです。

もちろん、小さなお子さんがいなくとも、メイドさんを雇う場合もあります。お掃除、お洗濯、食品や日用品のお買い物、お料理、お片づけ、とお家のことを何でもやってもらえるので、結婚後の女性も男性も安心して働くことができるのです。夫婦の月収が8,000RMB以上あれば、その1割程度で住み込みのメイドさんを雇うことができますから、こうした高所得のお仕事についている夫婦にしてみれば、どちらかが専業主婦(主夫)でいるより経済的にも有利であると言えるでしょう。もちろん、夫婦の月収が8,000RMB以上の家庭は北京市でも1割居るか居ないかの"小金持ち層"であることを忘れてはいけません。

北京で働くメイドさんは、ほとんどが地方出身者で、主に四川省、安徽省、陝西省など内陸部から出稼ぎにやってきた人たちです。原則として18歳以上でないと北京で働く許可を得られないのですが、15~6歳のメイドさんもいます。人づてに捜し求めるか、メイドさん紹介会社に頼めば、すぐにメイドさんは見つかるはずです。四川料理が好きなご家庭では四川省出身のメイドさん、湖南料理が好きなご家庭では湖南省出身のメイドさん、という具合に、お好きな料理に応じてメイドさんを選ぶ人たちも多いようです。

北京市工商局(日本で言えば地方の経済産業局みたいなものでしょうか)と商務局は、消費者協会や法律専門家、更にメイドさんサービス協会などの関係者と会合を持ち、ご主人様とメイドさんとの契約のスタンダードについて話し合ったそうです(中国政府網 = 北京日報からの転載)。12月初旬からは、以下のガイドラインに基づいた契約をメイドさんと取り交わさなければなりません。
『北京市メイド・サービス契約』の草案は10項目になっております。盗みや伝染病などメイドさんに重大な問題があった場合には、ご主人様が契約を解除できることになっております。と同時にご主人様は、メイドさんの人身権、財産権、人格権、休息権などの合法的な権利を保護してくださるよう強調させていただきます。例えば、メイドさんに対するご主人様の差別、虐待、セクハラは許されておりませんメイドさんに成人男性とご一緒のお部屋をご用意いただくことはお断りいたします。また、メイドさんには毎月4日間の休暇と毎日8時間の睡眠時間と、お食事、ベッドを与えてください。もし、国家が定める休日にお休みをいただけない場合は、通常の日給の2倍を残業手当としてお支払ください。
メイドさんとの契約に、上述のような内容が明記されるとなりますと、差別や虐待やセクハラが日常的に行われている現状を想像してしまいます。前述の通り、ほとんどの場合は住み込みですから、メイドさんに専用のお部屋を与えずに、ご主人様のお部屋に同居するよう強いる場合もあるのでしょうね....。

などと言うお話を、"メイドさん"と表現すると少し艶っぽいのですが....。
北京ではメイドさんのことを一般的に"阿姨(アーイ)"と呼んでいます。「オバさん」みたいな意味ですが、ちょっと敬いの気持ちも含まれています。実際にお料理や子育てでお役に立つメイドさんは、圧倒的にアーイ(オバさん)が多いのです。田舎で自分の家庭を持ち、毎日料理を用意して、子どもを育て上げ、その子が自立したくらいの方が、アーイさんとしては一番需要が大きいのです。自分の子どもの面倒を見てもらうわけですから、子育ての経験があるほうが良いのでしょう。若い女性には務まりにくいお役目です。

もちろん、保守的な子育てを懸念して独自の養育方法を模索する若夫婦には、こうしたオバさんは敬遠されたりしますから、若いメイドさんも居ることは居ます。子供のいない新婚夫婦が若いメイドさしまい、夫と良からぬ仲になってしまう、なんてこともあります。
とは言え、お掃除、お洗濯、お買い物、お料理、お片づけなどの肉体労働に従事するわけですから、メイド服では不便です。TシャツかトレーナーにGパン、或いは綿パンというコスチュームが一般的です。メイドさんという言葉から思い浮かべるイメージとは、きっとほど遠いのではないかと思います。
# by pandanokuni | 2006-10-19 17:35 | 社会ネタ
中国メディア、安倍さんを迎えるために地ならし進行中。
10月8日の日中首脳会談がほぼ固まったようです。
小泉さんのときには"悪役"扱いだった日本の"指導者"です。13億の民の手前、中国の"指導者"がにこにこしながら"悪役"と握手をするわけにも行かないのでしょう。
この時を待っていたとばかりに、安倍さんのイメージアップに躍起です。まぁ、小泉さんが首相だった最後の1年は、日本という国家とか政治家とか政府などと小泉純一郎個人をできるだけ区別して、"悪役"は日本政府の人たちではなく小泉さんなんだ、と念じ続けてきたので、小泉さんの後を継いだ安倍さんを"悪役"から"善人"へと持ち上げる土壌は出来ていたわけです。

新華社のウェブ版「新華網」が伝えた安倍さん関連の記事を拾ってみましょう。

『日本の新指導者に日中関係の改善と発展に建設的な努力をしてくれるように望む』(9月26日新華網)
安倍政権発足直後の記事ですが、中国側の期待の大きさが伺えます。この記事は、9月26日の中国外務省定例会見での秦剛スポークスマンの発言が元になっています。関連部分を引用してみましょう。
Q1:本日、安倍政権が成立しましたが、日中関係に対する影響は?
A1:私たちは日本の新しい指導者が日中関係の改善と発展のために努力してくれることを希望しています。
Q2:中国は日本の新首相に祝電を送りましたか?
A2:常識の問題です。
Q3:自民党総裁に選出された際、安倍氏はアジア外交重視を示しましたが、こうした態度に中国側が期待する価値はあると思いますか?
A3:私たちは日本の新しい指導者の言行一致を望んでおります。
Q4:靖国神社に参拝するかどうかについて、安倍さんは明確な態度を示していません。こうした態度は小泉さんと少し異なると思いますが、日中首脳会談にポジティブな影響をもたらすのでしょうか?
A4:中国側の靖国神社の問題に対する立場は一貫して明確なものです。
Q5:東京で開催された日中戦略対話の時に、日本側は安倍首相の靖国神社に対する態度を説明し、今後政治問題化しないために、首相は参拝に対する明確な表明は行わないことにする、と報道されていますが、中国側の態度は?
A5:この問題については、先ほどお答えしました。
Q6:安倍伸首相と胡錦濤主席の首脳会談が年内に開催される可能性はありますか?どのような条件で開催されますか?
A6:日中両国の指導者が会談する時期や条件について、私たちはこれまで何度も関連する立場を明らかにしてまいりました。ご出席の皆さんもよくご存知だと思います。その立場に変化はありません
Q7:麻生氏が外務大臣に再任されましたが、あなたの評価をお聞かせください。
A7:麻生外相は日本の新政権の一員です。私たちは日本の政権が日中関係の改善と発展のために努力してくれることを希望しています。

中国外務省のキーノートは、小泉さんのときと何も変わっていません。でも見出しの付け方によって、こうも印象が変わってしまうのです。悪意を満ちた記事にするなら『日本の指導者が変わっても、中国の立場に変わりは無い』などと見出しをつけることも出来たでしょうに....。既に歓迎ムードが漂っています(写真の選び方一つでもイメージは随分違ってきますね....直近ニュースサイトに掲載された両名の写真です)

『安倍首相、所信表明演説で隣国との関係改善を約束する』9月30日新華網
日本の安倍晋三首相は19日、国会衆議院本会議で首相に選ばれて最初の所信表明演説を行いました。演説の中で安倍首相は、中国と韓国は日本の重要な隣国であり、日本が中韓と相互信頼関係を深めることはアジア地区と国際社会のためにも重要であることを強調しました。(要約)
所信表明演説を取り上げた記事もポジティブです。

『安倍首相、日本の侵略がアジア人民に巨大な損害と苦痛をもたらしたことを認める。』(10月3日新華網)
日本の新首相安倍晋三氏は2日、衆議院で歴史問題に関する質問に対し、"村山談話"を引用し、日本の植民地統治と侵略は多くの国家、特にアジア各国の人々に巨大な損害と苦痛をもたらした、と答えました。
日本の最大野党である民主党の幹事長・鳩山由紀夫氏は衆議院本会議で安倍首相に対して、当時の日本のアジア植民地統治を認めるか、またA級戦犯の責任などに関する質問を行い、さらに靖国神社に参拝するかどうかについても明らかにするように求めました。
A級戦犯の責任問題について、安倍首相は、戦争責任の主体に関しては様々な議論があり、政府が具体的結論を出すのは適当ではない、と回答しました。また、日本は「サンフランシスコ講和条約」に基づき、極東軍事裁判の結果を受け入れたのだから、裁判結果に意義を示すべきではない、と答えました。靖国神社を参拝するかどうかについて、安倍首相は直接的な態度を表明しませんでした。
1985年8月15日、当時日本の首相だった村山富市氏は演説の中で、日本が過去に行った植民地統治と侵略に対して深い反省の念を表明するとともに、過去の過ちを繰り返さないよう、日本の若者に戦争の悲惨さを話しました。
まるで小泉さんが"日本の侵略がアジア人民に巨大な損害と苦痛をもたらしたこと"を認めてなかったように思えてしまうこの記事で、安倍さんをお迎えする準備も万端と言う感じです。
小泉さんは2001年の最初の訪中で真っ先に盧溝橋を訪ねました。そして「中国人民抗日戦争記念館」を見学した後、「侵略によって犠牲になった中国の人々に対し心からのお詫びと哀悼の気持ちをもって、いろいろな展示を見させていただきました。」と発言しています(在中国日本大使館のサイト)。敗戦60年の2005年8月15日には"村山談話"を踏襲した、「多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。こうした歴史の事実を謙虚に受け止め、改めて痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明するとともに、先の大戦における内外のすべての犠牲者に謹んで哀悼の意を表します。」という"小泉談話"を発表してもいます()。もちろん当時は、新華社通信などが速報扱いで好意的な報道したのですが((2005年8月15日付け拙ブログ)、この間の"靖国ノイズ"が大き過ぎて、多くの中国人民の記憶からはすっかり消え去っていたのではないでしょうか。ですから、こうした安倍さんの発言は、小泉さんとは何か違う、変わったと受け入れられているのではないかと思います。

こうして新華社など中国国営メディアは、安倍さん歓迎ムードを醸し出そうとしているようです。でもホンキで人民に歓迎してもらおうなんて思っていないでしょう。胡錦濤さんや温家宝さんが、いままで"悪役"だった日本の指導者と急にスリスリしちゃうと人民が納得しませんから、安倍さんが来る前に日本の新指導者は"悪役"では無いんだよ、と言うイメージ作りが必要なんだと思います。
読者が飛びつくようなニュースならば、あっという間に地方紙やニュースサイトに転載されていく新華網の記事ですが、いまのところ(2006年10月3日正午現在)あまり転載が進んでいない様子です。読者=人民の興味が無いニュースは国営メディアが音頭取りしても、大々的には広がらないようですね。SK-II問題みたいな"いちゃもん"系の話題ならば、あっという間に中国中に広がってしまうのですが.....。
# by pandanokuni | 2006-10-03 15:16 | 社会ネタ
9月25日-陳良宇失脚、9月26日-安倍政権発足、10月8日-日中首脳会談。
日本では"反日教育"と称されることの多い中国の"愛国教育"を強く推し進めて行ったのは江沢民さんです。江さんは1989年のいわゆる"天安門事件"以後、政権政党から人心が離れて行きつつあった1992年に党書記になりました。「北京で多くの市民や学生を殺めてしまったけれども(もちろんこのことを公に認めたりしませんが)、政権政党と人民解放軍はその昔"日本の帝国主義と侵略主義"と戦って、中国人民を守り抜いてきたんですよぉ。」と言う感じで、ヒーロー=中国共産党、悪役=(むかしの)日本、というディジタルでわかり易い歴史観を子どもたちに植え付けてきたのです。ヒーローの末裔でもありシナリオライターでもある江さんは、悪役の日本と簡単に妥協することはできませんでした。中国では悪役は何百年も何千年も悪役であり続ける場合が多いのです。

中国の政権政党、行政府、国軍のトップに立った江さんでしたが、2002年から2004年にかけてこれらの地位を"表向きは平和的に"胡錦濤さんへ譲りました。
とは言え、江さんがトップだった時代に"いい想い"された方がたくさん居るわけで、色んな"いいこと"が胡さんとその仲間うちへとすっかり持って行かれてしまう状況は避けなければなりませんから、引退後の江さんは悠々自適のご隠居生活を過ごすわけには行きませんでした。胡さんが、江さん路線を少しでも変更しようとすると、江さんは武器を持った仲間とともに脅しをかけて止めさせたりしてきました。自分と仲間の立場を守らなければ、いずれは自分自身が(むかしの)日本のように"悪役"にされてしまいかねません。前立腺に腫れ物が出来て、おしっこが出なくなっても、江さんは胡さんの思い通りにさせないようにと、影響力を保持してきたのです。

江さんが強化した"愛国教育"で育った子どもたちが20代を迎え、2005年4月に発生した"反日デモ"の原動力になもなりました。日本をいつまでも"悪役"にする限り、中国の日本に対する感情は良くなりません。悪化する"日中関係"に関して、中国政権内部では様々な打開策が議論されたはずですが、上海の江さんパワーに気兼ねして路線変更できなかったばかりか、より強硬な意見が支持されたりもしたのです。

いつまでたっても江さんに仕切られたままでは、胡さんも愉快ではありません。目立たぬようにされど着実に、江さんパワーを削ぐ準備を進めていました。軍人さんを味方に取り込んで、地方の有力勢力も丸め込めつつ、表向き"平和的に"....。
そして、この夏にはいよいよ"仕上げ段階"に突入したのです。8月には、過去の江さんの演説や発言をまとめた書籍『江沢民文選』が大々的に発表・出版され、胡さんが仕切る中国メディアが大々的に宣伝しました。いわば"褒め殺し"。こうなるともう、江さんも毛沢東さんや鄧小平さんのように"過去の人"として、祀り上げられるだけの存在です。
『江沢民文選』の発売を合図に、数百人とも言われる"刺客"が北京から上海に送り込まれました。上海で影響力を保持する江さんの一味に止めを刺すためです。そして、胡さんたちの経済引き締め政策に楯突いてきた江さんの仲間うちの陳良宇さんが、政権政党の重要ポストから追われてしまったのが、9月25日です。

胡さんたちによる、江さん一味の排除作戦は現在も進行中ではありますが、ここまで来ればもう胡さんは、江さんに気兼ねせずに政権運営ができるようになったと言えるでしょう。対日外交についても江さん路線に束縛される必要が無くなったと考えられるでしょう。

日中関係問題で胡さんたちが心配しているのは、
(1)"愛国教育"で育った若者たちの"反日思想"が一層過熱化した場合、人民全体をもコントロールできなくなること。
(2)首相の靖国参拝というワン・イシューで、日本との首脳会談を"袖に"してきた子ども染みた外交態度を欧米諸国などから非難され、国際社会の評判が低下すること。
(3)両国の国民感情レベルの"不信感"や"憎悪"が増すことで生じる経済への悪影響。具体的には日本企業の中国への直接投資の衰退や日本向け輸出の減少。
ではないでしょうか。心から日本と仲良しになるつもりは無いと思いますが、この数年来の最悪な状態をカイゼンすることが"国益"となると考えているはずです。

そして9月26日、安倍内閣発足。
その前日から大々的に始まった、江さん一味の"お世継ぎ"、陳さんなどへの"腐敗追及キャンペーン"は、日本の新政権発足にタイミングを合わせた動きとも思えてしまいます。小泉さんの意図的とも言える"負の置き土産"のおかげで、アジア、特に中国や韓国との関係をカイゼンできる絶好のシチュエーションを得た安倍さんにとって、実にラッキーな出来事とも言えるでしょう。
そして、昨日あたりから日本のメディアが報道し始めたのが、10月8日の安倍さんと胡さん温家宝さんとの訪中会談です。安倍さん自身が調整中であることを明らかにしたようですから、恐らくほぼ"本決まり"なのでしょう。

さて、日中首脳会談で日本のメディアが注目しそうなのは、"靖国問題"への言及でしょう。首相になる前の安倍さんは、自らのバレバレ参拝について、肯定も否定もしませんでした。首相になった後の安倍さんは、今後の参拝について一切語っていません。自国民に対してこうなのですから(もちろん対外的なメッセージ性は狙いのうちでしょうけど)、胡さんや温さんにどうこう話すことは無いように思えます。
きっと、日中首脳会談開催の日本側の条件は、中国側が"靖国問題"に言及しないこと、中国側の条件は、安倍さんが一定の期間、靖国神社にお参りには行かないこと、あたりなのではないでしょうか。

「日本に対しては歴史問題を永遠に言い続けなければならない」という江さんの、98年8月の発言が『江沢民文選』に載っているそうです。胡さんが江さんの影響下から完全に脱したとすれば、もしかしたらドラマチックな展開が待っているかもしれませんし、今後は首相の"靖国参拝"というイシューが日本側の外交カードになり得るかもしれません。
日本に居ると、ちょいと楽観的に考えてしまいがちですが....。
# by pandanokuni | 2006-10-02 17:55 | 政治ネタ
テレ朝+TBS+岐阜県+陳良宇=テレビ広告料金は半額になる....。
その1:テレビ朝日の"不祥事"
テレビ朝日が1億3,000万円の所得隠しを国税局に指摘されたという事件(NIKKEI NET)、平たく言うと大物プロデューサーが番組制作会社に架空の発注をして、その番組制作会社のお金を接待や自分自身の派手な生活費用に流用していた、と言うお話のようです(nikkansports.com)。
ちなみに、9月28日のテレビ朝日『報道ステーション』でキャスターの古館さんは「キックバックは無かった。」と明言していました。

その2:TBSの"トバッチリ"
反体制的な番組と評価されることも多いTBSテレビ『筑紫哲也ニュース23』で今週月曜日からサブ・キャスターを務めているフリーアナウンサー・山本モナさんが妻子ある民主党の衆議院議員と仲良くしていたところを講談社の雑誌『フライデー』に取り上げられた、と言うお話。山本さんは大阪のテレビ局のアナウンサーから全国区に華麗なる転身を遂げた矢先とのことで、いわゆる芸能人ネタとして取材していた同誌がたまたま政治家との色恋沙汰にでくあわしたと言うことらしいのですが、同誌発売日である9月29日には臨時国会で安倍首相の所信表明演説が行われる日でもあって、ちょいと政治的な意図を感じさせるようなタイミングでのスクープではありました。
当該民主党議員のご家族は別格として、この騒動に一番困惑しているのはTBSでは無いでしょうか。低迷する視聴率のテコ入れに『筑紫哲也ニュース23』は元NHKの人気アナウンサー・膳場貴子さんを迎えて、番組の大規模なリニューアルを行った矢先の出来事です。フリーのキャスターとは言え、また大衆メディアのテレビ番組とは言え、取材する立場のヒトが取材される立場のヒトと緊密な関係にあることは、よろしいわけがありません。しかも、(一応)野党議員との親密関係が暴かれたわけですから、筑紫さんの政権政党批判もいっそう迫力を欠いてしまう感じです。

その3:岐阜県職員の約6割
12年間で17億円もの裏金づくりを行ってきた岐阜県の職員たち4,421人が処分を受けました。全職員の約6割が裏金作りに関わっていたという感じでしょうか。
この裏金は、県職員の宴会などの飲み食いや公費を使いにくい接待、出張時のホテルのアップグレードなどに使われ、或いは使う予定だったといわれています。つまり"その1"のテレ朝大物プロデューサー氏が架空発注して番組制作会社に出してもらったのと同じような目的と言えるでしょう。
蛇足かもしれませんが、9月29日のTBSテレビ『筑紫哲也ニュース23』でこの問題を現地からレポートしていたのが、"その2"で取り上げた山本モナさんでした。

その4:陳良宇さんの746億円
上海市のトップといえる陳良宇さんが"深刻な規律違反"を犯したとして、上海市党委員会書記や中央政治局委員を解任されてしまいました。中国国内メディアは「腐敗問題追及のため厳格に調査中」であることを大々的に報道していますが、具体的にどんな嫌疑がかけられているのかはまだ伝えられていない様子です。
共同通信社が伝えた香港紙の情報によると"上海一の富豪”と呼ばれている不動産開発で大成功した周正毅さんに、公金を不正に融資した際に口利きしたことなどが挙げられているようです。ここ数年来の上海の"不動産バブル"は陳さんが一部の不動産開発業者と屈託して仕込んできた或いは容認してきた、と言う見方が一般的でしたから、象徴的な周さんあたりが次の"やり玉"に挙げられるのは筋書き通りともいえるでしょう。周さんに不正に融資された金額が746億円(50億RMB)なんだそうです(Chunichi Web Press=共同電)。
もちろん、陳さんの解任とその周辺の調査は、中国政権内部での権力闘争の一環と考えられます。胡錦濤さんが江沢民さんの残り香をようやく消し去ったことの証と言うこともできるでしょう。当局が「腐敗撲滅」と宣伝しても、"内輪揉め"だということは、多くの中国人民もご承知のことでしょう。党の幹部の中で陳さんだけが汚職に関わっていて、腐敗しているなんて信じている中国人民はほとんどいないでしょう。岐阜県の職員と同じくお役人の約6割くらいは、公金を流用したり、地位や立場を利用して口利きしたり、或いはその見返りで賄賂を受け取ったりしている、と考えているのではないでしょうか。きっと3割から4割くらいは"腐敗"してない"良い"お役人さんもいらっしゃると信じることにして.....。

ここからが本題
テレ朝の"不祥事"がクビになった大物プロデューサー一人の問題と考えることは、中国共産党幹部で"腐敗"していたのは陳良宇さん一人だけと考えるくらい非現実的なことです。もちろん、テレ朝だけの問題、と考えることも同じです。広告業界に身を置く私の感触では、6割くらいは似たような"悪さ"をしていると思えます。つまり"良心派"は3割から4割の少数派で、全体としては"腐敗体質"だと言えると思います。広告会社も似たようなものです。
民放のテレビ番組は、広告収入によって制作されます。テレビ局の人たちが"悪さ"をしなければ、番組制作費は1割から2割くらい安くなるはずです。加えて、番組制作会社で働く"良心的な"社員のお給料も1割くらいアップできるかもしれません。
広告収入はほとんどの場合、広告主の企業から大手広告会社を経由して支払われます。広告会社はマージン(手数料)として1割以上ピンハネしてからテレビ局に支払います。もちろん広告枠売買の際の手数料は、広告会社のサービスへの見返りとして必要ではありますが、欧米あたりでは1割もいただかないのが常識になりつつあります。私が働いていた中国では、ほんの数%の手数料であってもありがたいくらいでした。広告枠の売買に関する手数料が数%台と言う世界的趨勢にも拘わらず、日本の巨大広告会社などは2割以上の手数料を受け取っているのです。
しかも、テレビ局や巨大広告会社の皆さんのお給料はとても高いのです。高額年収ランキングに登場するのは、いまもなお東京のキー局や巨大広告会社です((参考)

すごく単純化しますが、広告主の企業がテレビ広告を放送してもらうために、広告会社に100万円支払います。広告会社はそのうちの80万円をテレビ局に支払います。テレビ局は60万円を番組制作会社に支払って、番組を作ってもらいます。番組制作会社は50万円で番組を制作して、10万円を発注してくれたテレビ局のプロデューサーなどに還元するという図式なのです。こう考えていくと、テレビ広告料金は現状の半額くらいまで安くすることができるのではないかと思ってしまいます。

とは言え、メディア接触の多様化などで、テレビ広告の効果なんて怪しくなってきています(Joseph Jaffe (著) 「テレビCMの崩壊」などをご参照ください)。それなのに、いまだに影響力を過信している人たちがたくさん居るのは不思議なものです。江沢民さんの影響力低下や上海閥の解体という時勢を読めずに、ガンガンやってきた陳良宇さんやその周辺の人たちみたいにも思えます。それは、キー局の"花形番組"のキャスターに抜擢された矢先に、野党議員といちゃついてしまった山本モナさんの脇の甘さにも似たようにも思えてしまいます。もちろん、政権政党と"対決姿勢"を明確にするはずの臨時国会開会間際に"不倫報道"をされてしまった民主党議員のことは言うに及ばずです。岐阜県の職員の皆さんも、時勢を読めなかった人たちなのかも知れません。
それぞれ表沙汰になった背景にも怪しさが漂っているので、みなさん気の毒ではありますが仕方ありませんね....。
# by pandanokuni | 2006-09-30 02:54 | 社会ネタ