「チベット人は”ふしあわせ”だろうか?」。2度目のチベット"観光"旅行を終えた感想を当ブログに書いたところ、たくさんの反響をいただきました。こんな主旨でした。
青蔵鉄路が開通し観光資源が掘り起こされたことにより、多くは移り住んできた漢民族の懐を潤すことになったとしても、苦難の昔に比べればチベット族の暮らしぶりも少しずつではあるけれど、豊かになりつつある...ダラムサラのダライ・ラマ14世も時流に逆らって国王に戻るより、受け継がれた地で、現実的な環境の中で精一杯暮らしているチベットの人たちの心の支えで居ればいいと思っているのではないだろうか。チベット人がブッダやダライ・ラマを慕うことができる"こころの自由"が脅かされないのであれば、私たちが彼(彼女)らを"ふしあわせ"だと案ずることのほうが、間違っているかも知れない。この10日ほど、チベットやその周辺のチベット人が暮らす中華人民共和国の支配地で起こっていることについて、自分として納得がいくほど情況を把握できていません。 1959年にチベット事件がおきた同じ3月10日、ラサ市内のチベット仏教寺院で行われた僧侶などによるデモ或いは抗議集会が今回の事態の始まりと思われます。 政治犯として拘束されている仲間の釈放を求めるためとも、漢民族のチベットへの"移民政策"に抗議するためとも報道されているようです。このデモ或いは抗議集会を、中国側の武装警察または軍が力によって抑圧しました。殴ったのか、催涙弾を使ったのか、はたまた殺傷能力のある武器を使ったのか、戦車や装甲車で踏みつけたのか、わかりません。しかしデモ或いは抗議集会に対する抑圧行動によって、多くのチベット人やチベット仏教の僧侶が亡くなったり、ケガを負ったのでしょう。 中国側の対応は、チベット人やチベット仏教の僧侶の態度を硬化させました。彼らは恐らくコントロールを失い、漢民族など他民族に関係する商業施設などを標的に暴力的な行為を行ったのでしょう。そうした行動は、中国側が更なる力によって抑えつけるべき標的となりました。 現在中国各地のチベット人居住地域に広がっている事態は、1次的にはこうした中国側の対応に対する抗議という意味合いが強いと思われます。 まず、はっきりすべきことは、3月10日のデモ或いは抗議集会が何に対して行われものだったのか。そして、中国側の抑圧行動はどのようなものだったのか、の2点だと思います。 この点、日本のメディアは何も明確にできていません。そもそも、日本ではメディアが「チベット暴動」と伝えていますがが、お家元の中国メディアですら「西蔵事件」と言っています。もちろん、"事件"を使うことに別の意図も隠されていると思いますが。当事者ではない第三者によって、事態の経緯を客観的に調査することが何よりも大事だと思います。 私が知る限りにおいて、チベット仏教の教えは暴力に結びつくものではありません。 たとえどんな不幸な情況に陥ったとしても、それを周りの環境や他人のせいにするのではなく、自分の輪廻として受け入れられる精神力を鍛えることこそ修行であり、怒りを顕わにし暴力に訴えることこそ、無知による煩悩の仕業から逃れられない凡人の行動なのですから。 ダライ・ラマ14世と同年代でチベット仏教の"活仏"の一人であるトゥルク・トンドゥップの著書『心の治癒力―チベット仏教の叡智』にはこうあります。 僧侶たちの大半は、じぶんの不幸な体験を、他人のせいにすることなく受け入れ、そのことによって癒されていた。じぶんの不幸を他人のせいにすれば、たしかに一時的には良い気分を味わうことができる。だが、結局のところ、苦しみと混乱は大きくなるばかりだろう。他人のせいにせず、状況を受け入れることこそ、真実の癒しの始まる転回点である。そのときはじめて、心の治癒力が始動する。ですから中国側が配信する映像の中で、漢民族の商店や銀行を足蹴りしている修行僧をみたときは少なからぬショックを受けました。もちろん、鍛えられた精神ですらコントロールできないような背景があったのでしょうけど。 ダライ・ラマ14世を頂点とするチベット仏教徒の意識が平和的運動による"独立"或いは高度な自治権の獲得であると信じる者にとって、中国側が主張する「ダライ集団による扇動」「ダライ・ラマ14世の関与」は、非常に稚拙な論理だと思いますし、北京オリンピックを間近に控えた中国にとって国際世論に対する上で間違った戦略だったと思います。 ただ、かつてアフリカやアジアを植民地にし、現地人から搾取し苛酷な生活に追いやった西欧をはじめとする国々が、オリンピックのボイコットも含めて中国を一方的に非難することについて、正直なところ若干の違和感を覚えています。 かつて自国の繁栄のため、非効率なエネルギー利用によって、さんざんCO2など地球環境に悪影響を及ぼす物質を排出してきた国々が、あとから経済発展を始めた中国やインドにイチャモンをつけるのと同じようにも感じます。 かつての日本も、西欧諸国の躍進に少しだけ乗り遅れただけで、"悪者扱い"されボコボコにされてしまったのですから、世界の時流が民族国家のほうに向いているとしても、少数民族の支配や独立に関する問題とその解決方法は、現時点の情勢だけではなく、歴史の流れを遡った中で冷静に行われるべきでは無いかと思います。 一応第三国の日本としては、西欧諸国のように「オリンピックはボイコットだ」などとヒステリックに反応するよりも、冷静になって事実に近づく手がかりを捜し求めることと、当事者の間に入って平和的に問題が解決できるよう骨を折ることこそが肝要なのではないかと思います。もちろん、西欧諸国をはじめとする国々にもそのような対応を期待しています。 そうした第三国の好意を頑なに拒否すれば拒否するほど、中国側は苦境に立たされるでしょうし、国際社会のコンセンサスを得られる解決に向けた行動こそが、中国が国際社会のリーダーとして認められるための条件でしょう。いつまで経っても、そうした対応ができないのであれば、一部の皆さんが予測するように、中国の崩壊に向けた加速度が増していくはずです。 「 ダライ・ラマ法王日本代表部事務所からのアピール/日本の皆さまへ」の中でも、日本の協力が求められています。 チベット人は、中国による植民地統治のもとで、現在に至るまで想像を絶する苦しみを強いられてきました。いくら中国側が、「チベットは発展し、チベット人は幸せになった」と述べ立てたところで、今回の事件は、中国の統治下におかれたチベット人は、まったく幸福ではない以前このブログで<中国の中にあっても、チベット人は少しずつ"ふしあわせ"な状態から抜け出すことができるのではないか>と書いた自分の論理が、中国側の主張と何ら変わりが無い、とは思いたくありません。 チベット仏教の寛容な精神によって現実を受け入れながら、チベット人は平和的な方法で自由な権利を広げていくのだろう、という理想から生じた想いだったのです。少なくとも当事者の一方は、そうであると。 その想いはいまも変えたくはありませんが、チベット僧侶の怒りの行動をニュース映像で見てしまうと、理想と現実の距離を改めて思い知らされました。 それにしても、中国のインターネット・アクセス禁止システムはたいしたものだと思いました。 日本からのアクセスでも情報統制できるんですね。いつもどおりアクセスできるBAIDU Newsも、チベット関連のキーワードを入力した途端に繋がらなくなっちゃいました。 日本のケータイ・キャリアはもっと努力してほしいものです。
by pandanokuni
| 2008-03-20 20:59
| 社会ネタ
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