もう20年近く前の話ですが、デイヴィッド・サンボーン[David Sanborn](Wikipedia / はてなダイアリー)と日本国内5~6ヶ所のジャズ・フェスティバルのツアーを"一緒"に回ったことがありました。
"一緒"とは言え、駆け出しの広告マンだった私の役割は、スポンサー向けのテント張りや氷の調達。真夏の陽射しを避けるところすらない無い屋外特設会場での肉体労働でした。 そんな"パシリ"状態の私に対してすら、ジャズメンは気さくに接してくれました。顔見知りになると、音合わせの時にはステージから降りて私の準備するテントまでやってきて、すぐそばでサックスを奏でてくれたりもしました。 デイヴィッド・サンボーン・グループの出番はフェスティバルの一番最後。そして、いつもラストから2曲目が"Dream"("Change of Heart"と言うアルバムに収録されています)というバラッドでした。ステージの最中は、スポンサー商品のサンプリングやら接待ブースへの氷運びやらで汗だく、大忙しで、とてもゆっくりと演奏を聞く余裕など無い立場でしたが、この"Dream"の演奏が始まるころには、ようやく一段落、"Dream"の演奏が終わると、"客出し"つまり来場客のお見送りの準備を始めるという感じでした。 当時はブリティッシュ・ロックに傾倒していて、ジャズとかフュージョンにはあまり興味が無かった私でしたが、サンボーンと彼の"Dream"には、強い思い入れがありました。 先日、中国駐在の"卒業旅行"として、チベットのラサ(拉薩)から西蔵鉄路で青海省のゴルムド(格尓木)、更に長距離バスで敦煌、張液、蘭州を経て、青海湖へ至る、中国西部5,000Kmの旅に出かけてきました。この地域は、チベット仏教を信仰するチベット人やモンゴル人、イスラム教を信仰するウイグル人などが多く住み、化石資源や軍事施設も多いので、一部のエリアでは未だに公安当局が発行する「通行証」が無ければ外国人は通過すらできません。そして、ご存知の通り、信教や民族の伝統文化などをめぐって、いまなお多くの問題を抱えた地域でもあるわけです。 海抜3,000mから5,000mの高地は変化に富み、毎日12時間以上も列車やバスに揺られていても、目を閉じることすら惜しいくらいの風景が続きます。車窓に顔を貼り付けるようにして、美しい大地の演出を眺めていると、20年近く前に野外ジャズ・フェスティバルで聴いたサンボーンの"Dream"が蘇って来ました。 撮り貯めた映像をこの曲に合わせて編集してみましたので、お時間があればぜひご覧ください。 チベットについて言及した前回のエントリー(exbloge版)には、たくさんのご意見をいただきました。 そして、この地域の映像に添えたサンボーンの曲のタイトル、"Dream"の意味を考えてみました。 外国人のツーリスである私にしてみれば、素晴らしい風景の中で暮らす人たちと"争いごと"は遠い関係であってほしいと考えているのかもしれません。彼ら・彼女らの心の祈りが"争いごと"すら空虚なものにしてくれるのではないかと願ったりもしました。 そうした他者による理想とは別に、当事者の方々は、いまもなお安寧と言える状態では無いことも事実でしょう。他者による理想と当事者の現実のはざまの中に、この美しき高地が存在しているのでしょう。 "Dream"を中国語で"幻夢(Huan Meng / 日本語の"夢幻"に近いでしょうか)と訳しました....。 イラク戦争で無くなったアメリカ兵士の数は、5年前の9月11日にニューヨークのWTCで亡くなられた方を上回っているそうです。イラク戦争の"終結宣言"以降にイラク国内で亡くなられた方は、さらにその7倍以上にのぼるとか。 命の数を比較することじたい不謹慎ではありますが、人間の叡智をして解決する方法がほかに見つかるのではないかと信じたいと思います。人と人とが殺し合いをせずに共存できる時代がくることを願っています。 このエントリーが恐らく北京在住の身分としては最後になります。 中国当局のやり方が不適切であるならば、そのことをしっかり主張することこそ、この"ユニークな"隣国とうまく付き合っていくための近道であると信じています。 もちろん冷静に、決して感情的にならず....。そのためにも、この国のことをしっかり研究することも必要だと思います。 ショートムービー『西藏、敦煌、青海 The Dream - 幻夢-』
by pandanokuni
| 2006-09-12 00:46
| 政治ネタ
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