映画通の複数の知人に勧められたので、映画館まで足を運ぶことにしました。
舞台は現代の重慶。全編、四川ことば、しかもスラングが飛び交います。中国語の字幕付きとは言え、ディテールまで楽しむことができませんでした。既に正規版のDVDも発売されていたので、買って帰り、自宅で再度鑑賞するハメになりました。テンポの良い"ブラック・コメディ"の秀作です。 今週の動員トップはハリウッドの『パイレーツ・オブ・カリビアン2』のようですが、この『CRAZY STONE (瘋狂的石頭)』(新華網の紹介ページ)も7月中旬には券売ランクで全国トップとなり、公開から1ヶ月で1,660万RMB(2億4,000万円)の興行収入を獲得したそうです(新浪網)。制作費が300万RMB(約4,500万円)と言われていますから、中国国産のB級映画(失礼...!!)にもかかわらず、ビジネス的には既に大成功したと言えるでしょう。いま中国都市部の若者を中心に大きな話題になっており、間もなく香港でも公開されるそうです。 この映画をプロデュースしたのは劉徳華(アンディ・ラウ)。彼はアジアの新人監督にチャンスを与えるために『アジアン・ニュー・ディレクターズ(亜州新星導)』というプロジェクトを創設し、香港、台湾、マレーシア、シンガポールの若手監督の6作品に投資しています(新浪網。その中の一つが、寧浩(ニン・ハオ)監督による『CRAZY STONE (瘋狂的石頭)』なのです。 私の知る限り、張芸謀の『活きる(活着)』に出演していた郭涛(グオ・タオ / この映画では、前立腺肥大の"翡翠ブローチ"警備部長を演じています)を除き、著名なキャストやスタッフによる作品ではありません。 監督の寧浩(ニン・ハオ)は北京電影学院を卒業後、20万RMB(約300万円)ほどの手持ち資金で2003年に『香火』と言うビデオ作品を自主制作しました。この作品は第4回東京フィルメックスで最優秀作品賞に選ばれました。その後、彼はミュージック・クリップやテレビドラマの仕事で小金を貯め込み、第二作目となる『緑草地』を制作しましたが、借金だけが残る結果になってしまいました。そんな中で劉徳華(アンディ・ラウ)と出会ったそうです....(新浪網)。 『CRAZY STONE (瘋狂的石頭)』は、重慶の潰れかかった美術工芸品工場の"秘宝"である、時価1億円の"翡翠ブローチ"をめぐる国際手配のプロ窃盗師と地元の素人窃盗団との争奪戦を、アイロニックにかつコミカルに描いた作品です。 若手監督らしい新鮮な表現手法が随所に見受けられ、私としては宮藤官九郎の本をタランティーノが撮ったような雰囲気に思え、楽しかったです。 ねたバレしちゃうとこれから観る方に申し訳ないので、細かいストーリーは書きませんが、この映画の中には最近、中国の"三面記事"的ニュースとして話題となったエピソードが随所に再現されていますので、二つほどご紹介したいと思います。 まずは、"子犬を電子レンジで「チン!」事件"。 数年前の話ですが、成都の有名大学の学生が、生きた子犬を電子レンジに入れて1分間「チン!」しちゃったと言うお話です(CER Network)。当時は<いまどきの大学生は、子犬を電子レンジで「チン!」したらどうなるかも分からないのか>と大きな話題になりました。 映画の中では、引越屋さんを装って家財道具を盗み出す際に、電子レンジも子犬もまとめて運び足すための方法として使われています。ちなみに"ニセ引越屋"さんはこの国でポピュラーな家財窃盗の方法です。 もう一つは、"プルトップ懸賞詐欺事件"。 確か昨年だと思いますが、某コーラ屋さんが<缶コーラのプルトップの裏側に"当たり"の印字があると最高で5万RMB(75万円)の現金がもらえる>というキャンペーンを行っていました。そして、このキャンペーンに目をつけた三人組の詐欺師が北京の地下鉄やバスに出没しました。 まずAが、適度に振動を与えた缶コーラを開け、隣の席のBに噴き溢して注目を引きます。コーラの飛沫をかけられたBは、怒ってけんか腰になるのですが、プルトップの裏側に印刷された文字を見て驚き、Aに5万RMB当たったことを知らせます。コーラの懸賞のことなど知らない田舎から来た風のAは、缶に印刷された当選金の受け取り方法を始めて読み、驚きますが、ちょっと浮かない顔をしています。当選金の受け取りには身分証が必要なのですが、出稼ぎ労働者のAは有効な身分証を持ち合わせてないのです。Aがそんな話をBにすると、Bは「だったらオレが"当たりのプルトップ"を3,000RMBで買い取る」と言い出します。Aは「5万RMB当たったのに3,000RMBじゃあ...」と躊躇します。するとBは「どうせ道も分からないだろうし身分証も無いんだから、当選金受け取れないぞ。いま現金で3,000RMB払うから!!」とお財布の中の100RMB札を数え始めます。このやり取りを遠巻きに見ていたCが「"5万RMBのプルトップ"を3,000RMBでうる奴が居るか!?オレなら5,000RMBで買うぞ!!」などと声をかけるワケです。 この詐欺、実は私も乗り合わせた地下鉄の中で遭遇しまいました。車内がオークション会場みたいに盛り上がりかけていたときに、警察がやってきて、詐欺師はどこかに連れて行かれてしまいましたが....。 三人がグルだということに気づかず、このやり取りを真に受けた欲深い乗客が、5,000RMBや1万RMBを騙し取られるという事件が全国で頻発したそうで、新聞やネットで大きな話題になりました。 もちろん"当たりのプルトップ"はニセモノ。騙すほうも騙されるほうも、いかにも中国っぽいなぁ、と思いました。でも、映画の中では既に"ねたバレ"していて乗客は誰も騙されませんでしたが....。 『CRAZY STONE (瘋狂的石頭)』は、現代を生きる中国の人たちが共感しそうなエピソードが豊富に盛り込まれていて、庶民的な映画でもありますが、若いクリエイターのセンスを感じさせるニューウェーヴな作品でもあると思います。 日本で中国映画といえば、アクション系か大型時代活劇が主流かと思いますが、この種の若手B級映画なども日本で手軽に観れるようになって欲しいと願っております。
by pandanokuni
| 2006-08-07 15:34
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