人民日報Web版に「日本の右翼メディアが中国を中傷するスクープはどこから来ているのか?」と言う記事が転載されています。オリジナルは、人民日報系の全国紙「環球時報」5月19日に掲載された記事です。
その"スクープ"とは、産経新聞5月18日付け朝刊に掲載された同社の元中国総局長・古森義久さんの署名入り記事「大量破壊兵器、主要供給者は中国 CIAが断定」(Sankei Web)のことです。 <世界の大量破壊兵器類の拡散に関し、米中央情報局(CIA)の報告書が、中国は大量破壊兵器の「主要な供給者」でイラン、北朝鮮、リビアなどに弾道ミサイルや化学兵器類を売却したと、断定していることが明らかとなった。> 人民日報Web版は、産経新聞の記事のこの部分をほぼそのまま引用しています。 人民日報=環球時報の記事は、そのリード部分も含めて「産経新聞」に対する批判を全面に押し出していますが、実は「共同通信社」が一足早く関連記事を配信しています。5月14日にワシントン発で配信した「北朝鮮制裁 拡大を検討 軍事企業取引の中国金融機関標的 米、圧力強化を模索 6カ国協議頓挫も」(西日本新聞5月15日朝刊の記事)というタイトルの記事です。 <米国が大量破壊兵器の拡散阻止を目的に昨年出した大統領令に基づき、北朝鮮と取引のある中国の複数の銀行に対する新たな制裁措置を検討していることが14日、分かった。米政府筋が明らかにした。> 日本メディアによるこれら2つの"スクープ"は、中国が北朝鮮やイラクなど"ならず者国家"(by ブッシュさん)に対する大量破壊兵器類の主要な供給者であることを"暴いた"ことになります。お膝もとのアメリカのメディアが"スクープ"できなかったアメリカ政府中枢やCIAのネタを、我が日本のメディアのみが"スクープ"できたというのであれば、日本のメディアの情報収集能力たるや、たいしたものであります。 ただしネット上で検索する限り、アメリカの主要紙をはじめ日本以外のメディアは、この"スクープ"の後追い報道すらしていません(5月22日20:00時点)。 中国当局は共同による14日の報道を、5月16日の外務省定例記者会見で否定しています((中国外務省HP)。 事の真偽はプロフェッショナルな皆さまにお任せするにして、人民日報=環球時報のこの記事から、面白いと感じた点を書かせていただきたいと思います。 まずは、「共同通信社」に対する依怙贔屓(えこひいき)。この件について最初に報道し、尚且つ中国の銀行に対するアメリカ政府の制裁にまで言及したのは「共同通信社」なのに、叩かれているのは「産経新聞」のほう。共同の報道にも触れてはいますが、産経新聞の記事を批判した後で、「この他にも.....日本ではこのような報道が少なくない。」と言う程度の扱い。 日頃から仲良くしていると、たまに"悪さ"しても大目に見てもらえると言う、中国との付き合い方のヒント(!?)が見え隠れしているように思えてしまいます。 もう一つ、この記事で人民日報の日本のメディアに対する見方が述べられていることです。オリジナルの環球時報の記事を書いたのは日本駐在の人民日報特約記者です。ちょいと長いのですが引用します: <「産経新聞」は日本の五大全国紙の一つで、発行部数は約219万部。日本国内では右翼系新聞と呼ばれている。中国のネガティブなニュースに対して興味を示し、日本国民の中国に対する不正常な見方を助長し、中国に関する正当な報道は非常に少ない。 「共同」は日本最大の通信社で、新聞社や放送局など59社が共同出資して運営されている。「読売新聞」「朝日新聞」「毎日新聞」など日本の主要な新聞社も共同通信社のユーザーである。日本における影響力はかなり強く、配信情報の採用率は少なくとも5-10%。「共同」は基本的にまだ客観且つ中立的立場であるが、時に中国を批判する記事を配信する。転載率は高く、影響は非常に大きい。 日本では、政府各部門のすべてに記者クラブが存在する。日本の主要メディアは政府各部門の記者クラブに所属し、配属された記者は記者クラブにデスクを置く。独自に取材する部門の記者は、新聞社に出勤しない。彼らの任務はスクープを得ることだ。しかし彼らが国外で"知人"や"情報源"によって掘り出すスクープは、国内ニュースと比べると精度がかなり低い。第一に日本の報道機関の海外駐在パワーは弱く、欧米の主要メディアには及ばない。第二に日本メディアは、いまの政界と同様に"感情的"になっており、常に先入観に影響される傾向にある。日本メディアの中国に関するアメリカ発の報道の多くは、アメリカ人が日本メディアに先陣を切らせてうまく"利用"という一面も排除できない。>(強調はこのブログの管理人によります) 産経新聞を右翼系と呼ぶ日本人は少ないとは思いますが、全体としてまったくハズしているわけでは無い分析と言えるのではないでしょうか。 最後に(これが一番面白いと思うのですが)、人民日報=環球時報の記事は<日本メディアの中国に対するネガティブ報道の背後でアメリカが糸を引いている>と結んでいます。アメリカの保守的勢力に日本の"右翼系"メディアが担がれていると言っているのです。このこともあながち否定はできませんが、根っこのアメリカを非難せずに"担がれている"はずの日本メディアを批判するあたり、いかにも中国っぽいっと思ったりするわけです。
by pandanokuni
| 2006-05-22 21:11
| 社会ネタ
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