東京などへの出張で、10日ほど北京を離れていました。日本では、このブログも含めエキサイト・ブログにはスルスル入れたのに、やはり北京に戻ると通常の方法では繋がりません。困ったもんです。
この10日間、移動時間が多かったもので、随分本を読むことができました。タイトルから、村上龍の『半島を出よ』と似たようなテーマ性を感じ、ハンフリー・ホークスリーが書いた『北朝鮮最終決戦』と言う文庫本を買い、あっという間に読み終えました。 この本の原題は"The Third World War"(第3次世界大戦)で、北朝鮮は登場国の一つに過ぎず、インド、アメリカ、パキスタン、中国、ロシア、イギリス、日本、韓国など、多くの国々が破滅へと向かっていくストーリーなのに、二見文庫の編集者は相当ごり押しして、邦題に旬の"北朝鮮"を躍らせてしまった感じで、ちょっと残念な感じです。作者ハンフリー・ホークスリーはアジア諸国で長年にわたって取材活動を続けてきた元BBCの北京支局長だけあって、ヒューマニティが心地よく香り、常にフィクションの中に居る安心感が漂う村上ワールドの『半島を出よ』とはまったく異なり、ドラスティックな軍事と政治の観点から近未来の、アーミテージあたりが真面目に予想可能な国際紛争を描ききっている感じです。 この両フィクションに共通する6年後か10年後くらい近未来の世界は....北朝鮮は軍部の暴走を腐敗した政権側が抑えきれなくなっていると言うこと。アメリカがアジアの紛争解決に臆病もしくは消極的であること。中国が世界のキャスティング・ボードを握っていることでしょう。 一方、両作品において近未来の日本は異なる描かれ方をされています。『半島を出よ』の日本は既に破綻した国家で、同盟国アメリカからも見放されつつある。日本政府は無策無力にして、集団に所属することを拒否してきた"不良"若者が日本を救うことになります。一方、『北朝鮮最終決戦』の中の日本の首相・佐藤徹は核軍備こそがアメリカの傘から抜け出す道だと主張する、いわば熱血漢。 中国に関して言えば、見事に経済成長を続け政治的にも安定しつつあり、アメリカも自国と同等の大国として認め、対立から妥協と協調へと政策を打ち出している、というのが村上龍の描く近未来であり、ハンフリー・ホークスリーのフィクションの中の中国もほぼ同等の状況にあると言えるでしょう。『北朝鮮最終決戦』の中の中国の国家主席は青春時代をアメリカで過ごし、巨額の富をビジネスで創出することもできたのに、敢えて国家主席になってしまった感じの男として描かれています。中国は相変わらず"民主主義"ではない形で成長を続けていますが、国家として反映し続ける上で、経済的に豊かになることは不可欠であると考え、国際社会との協調路線を取ることを明確に打ち出しています。そうしたオペレーションを遂行できる人物こそ、ジェイミー宋という名の国家主席なのでしょう。 元BBC北京支局長である『北朝鮮最終決戦』の作者は、アメリカ的"民主主義"より中国的"独裁主義"のほうをきれいに描いている感じすらします。アメリカの"躊躇"が世界を核戦争に陥れてしまいます。中国とロシアがキャスティング・ボードを握り、第3次世界大戦後の世界を指導するのが中国になるのか、と言うストーリー展開なのですが、いよいよと言うところで、その中国でも軍部が台頭してしまう。ウミガメ国家主席ジェイミーは、軍部と共産党とのバランスの上に立たされていることを十分理解しているので、もはや自分のできることは何も無いと悟るのですが、"世界の終わり"の前の日に、中央軍事委員会の陳主席と共産党の範総書記と北京の国貿中心25階で会談します。 "実際文化"(実用主義=プラグマティズム)。ここまで中国の成長を支えてきたコンセプトについて、ジェイミー宋国家主席と範共産党総書記の間には共通の想いがあったようなのですが、軍部にそれを理解して行動してもらうのは難しい状況なのです。 私には現実の世界でもここのところが中国の"アキレス腱"のような気がしてなりませんでした。 この3者会談の前日、北京のイギリス大使館と日本大使館が中国の「第二砲兵」と呼ばれる反乱軍によって焼き討ちされます。天安門広場にはこの反乱軍が集結しているのですが、その周りを北京市の警備当局が取り囲んでいます。北京市政府は宋国家主席側についていたのです。国務長官が"人質"となっていたアメリカ大使館では、反乱軍と北京市警備当局の間で攻防戦が繰り広げられます。そんな中で、若手実業家であるジェイミー宋国家主席の息子は暴徒に絞め殺されてしまいます.... 『北朝鮮最終決戦』における北京の破壊はここまで。でも私がいま住んでいるエリアでの近未来の出来事が詳細に描かれているので、作者の経歴を考慮すると、かなりリアリティを感じてしまいます。 その後、世界が核戦争に呑み込まれても、北京は核ミサイルの砲撃を受けずに済んだようです。北京郊外・清河にある「第二砲兵」の司令部には通常弾頭によるミサイル攻撃を受けたようですが。アメリカ、日本、イギリス、ロシア、韓国、北朝鮮の政権中枢が核と生物兵器の攻撃により、尽く機能しなくなった世界で、中国はどうするのでしょうか。イギリス人の作者は、さすがにそこまで描こうとはしませんでした。
by pandanokuni
| 2005-05-29 21:58
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