中国映画がオタッキーなもので無くなったのは、張芸謀のような巨匠とハリウッドが一層緊密になったからでしょう。世界市場を意識して、美や物語が普遍性に基づいて表現されていくのは良いことかもしれません。ただ、『紅いコーリャン』や『あの子を探して』の張芸謀を知る中国や日本の映画ファンにとって、『英雄(邦題:HERO)』や『十面埋伏(邦題:LOVERS)』は何か違和感のある作品だったのではないでしょうか。エンタテインメントとしての映画を目指しつつ、アート性やメッセージ性をどうしても捨て切れなかった、張芸謀の心の揺らぎみたいなものを、私は感じてしまいます。
先週末北京で公開された、周星馳(チャウ・シンチー)の『功夫(邦題:カンフー・ハッスル)』は、エンタテインメントを徹底的に追及する姿勢に満ち溢れていて、批評好きの北京っ子をも文句無しに笑い転がせています。『功夫』は典型的なカンフー映画で、しかもコメディですから、物語性を重んじる張芸謀の作品と簡単に比較できるものではありません。ただ、ブルース・リーが産み出しジャッキー・チェンが育て上げたカンフー・エンタテインメントを、大陸・上海生まれの周星馳が見事に完成させた作品だと思います。 ストーリーはいたって単純。 平凡に暮らす長屋の人々が、ふとしたきっかけから黒社会の攻撃対象となってしまいます。長屋の住人には隠れたツワモノがたくさん居て、何度も追い払うのですが、最強の大家夫婦が絶体絶命の危機に陥ってしまいます。最後は黒社会の構成員で周星馳が正義の味方に変身し、黒社会が送り込んだ最強の拳師を打ち負かし、めでたしめでたし。もちろん、お涙頂戴の恋愛物語も盛り込まれていて、瞬きをする間も惜しいくらいのテンポで楽しませてくれます。 やけに写実的に再現される古き香港の街並みとえげつないくらいチープなCGのコントラストによって、虚構の世界が逆に現実味を帯びてくるところが不思議です。カンフー映画の真髄ともいえるアクションシーンも、敢えて偽物っぽく作りこんでいるような気がします。悪者をやっつけるのは、技や力ではなく立ち向かう人の気持ちなんだ、とでも言いたいのでしょう。黒社会の登場とともに立ち込める暗雲、周星馳が恋人役の黄聖依を抱き起こすシーンに顔を出す映画のポスターなどなど、これでもか、と言うくらいの過剰演出なのですが、見る人の気分を害するものではありません。 何事にもケチをつけずには居られない北京っ子の映画フリークに言わせると、「文句のつけようが無いエンタテインメント映画」。私もまさにそう思いました。 その言葉を裏付けるように、クリスマスイブ一日の興行収入は、『英雄(邦題:HERO)』を持つ記録を抜いてしまったそうです(SOHU・中国語)。 私が映画館を訪れたのは平日の深夜だったのですが、上映30分前には席が売り切れてしまい、次の上映を待つことになりました。ちなみに北京の北三環路にあるシネマ・コンプレックスでは、5つあるうち3スクリーンを作って、30分おきに上映していました。同時期に公開され、こちらも前評判が高かった憑小剛監督(彼は『功夫』に友情出演しているのですが)の『天下無賊(英語タイトル:NO THIEF)』のほうは、1スクリーンなのに閑古鳥が鳴いていて、ちょっと気の毒な感じでした。 台湾での出だしもハリウッド映画を凌ぐ勢いのこと(中国情報局)。 それでも私は張芸謀的映画のほうが好きなのですが、見る者を徹底的に引き付けるというエンタテインメントの原点を考えると、今年は『功夫』が飛びぬけた感じがします。
by pandanokuni
| 2004-12-29 15:48
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