「中国の釣魚島(尖閣諸島)を守る」と掲げたバナーの前のミリタリールックの写真が日本でも話題になった"日本の人気アイドルグループ"angel girl。日本のGoogleトレンドでは一時トップに輝くキーワードとなりました。
ほとんどの日本人が知らなかったこのアイドルグループの話題が、どのようなストーリーで中国のインターネットに広がって行ったかを整理てみます。 百度のニュース検索でangel girlの記事を調べると、現時点では3つの話題に分類できます。中国のニュースサイトは転載フリーですので、このことは、元記事(情報源)がほぼ3つであることを意味します。 最初の記事はangel girlという"日本で人気の"華僑アイドルグループの紹介記事で、2010年10月12日に発信されています。元記事は、中国共産党の機関紙「人民日報」のオンライン版である「人民網」のエンタメ版に掲載されています。 人民網エンタメ版発 日本メディアの報道によると、アイドルグループangel girlは東京近郊で近日出版される写真集 この記事は、angel girlのこれまでの活動には一切触れておらず、年末に出版される写真集の準備中(既に予約が80万冊!)としたうえで、日本のアイドル市場における女性グループの成功をSpeedやPerfume、AKB48を例に出して紹介しています。 謎のグループangel girlに関しては、"日本在住華僑の女性グループ"と簡単な説明をしているだけです。百度の検索によると、この人民網の記事は50以上の中国のニュースサイトに転載されています。 angel girlが次に中国のニュースサイトに登場するは、人民網の"紹介記事"が掲載されて1週間後の10月19日。ただし、angel girlが主役ではありません。「日本オタクの十大女神発表」というタイトルで、中国でも人気の林志玲がトップテン入りして、周冬雨が選に漏れた、ということを主眼として、この二人の写真が掲載されています。 日本の某雑誌社とコミュニティサイトが共同主催し、多数の日本の男性ネットユーザーが1ヶ月に渡る選考期間に積極的に投票した、とされるこの"十大女神"に選出されたのは、angel girl、AKB48、沢尻エリカ、Beckii Cruel、佐々木希、堀北真希、林志玲、蒼井そら、蔡依林、上戸彩。 angel girlの話題は、この"十大女神"のリストで登場するのみではありますが、アルファベット順でも五十音順でもなさそうなのに、トップを飾っている、というのは、何だか意図的ではあります。 「日本オタクの十大女神発表」の元記事は、複数の転載記事がニュースソースとして記している新快網であるようです(残念ながら現時点では元記事を見つけることができません)。梁燕芬さんという方の署名記事ですが、こちらも「日本メディアの報道によると」としています。この話題は120以上のニュースサイトに転載されています。 新快網は、広東省の夕刊紙「羊城晩報」を発行する羊城晩報集団傘下の中国では最も早く開設されたニュースサイトです。 そして3つ目の話題というか露出が例のミリタリールックの写真で、10月22日の午前中に、国際在線(CRI Online)が掲載したようですが、現時点で元記事は削除されてしまった模様です。元記事の体裁に近いと思われる中国新聞網の転載記事を要約すると: 昨日、日本のアイドルグループangel girlが自分たちのマイクロブログに「愛国ファッション写真」を発表した。日本在住の留学生たちの助力もあって、4時間も経たないうちに60万件ものアクセスがあり、そのマイクロブログは閲覧できない状態となっている。 そして、この記事で初めてangel girlのメンバーが紹介されています。
ところが、22日午後以降の記事では、「中国の釣魚島を守る」というバナーの前で撮影された写真が掲載されるようになりました(Neteaseの転載記事)。転載のニュースソースは国際在線。記事の内容は元記事のままですが。 国際在線(CRI Online)は中国国際放送(China Radio International・通称北京放送)のニュースサイトです。中国国際放送は、主に海外向けに外国語放送を行っているラジオ局で、もちろん中国共産党中央宣伝部傘下の組織です。 たかが偽造アイドルの話題かもしれませんが、露出のタイミング、ストーリー、発信源、メッセージを考慮すると、これはもう中国当局が巧妙に仕組んだ中国の若者に向けた"反日デモ"対策の一貫であるような気がしてなりません。 10月23日に内陸部を中心とした複数の都市で呼びかけられていた"反日デモ"は四川省独陽市を除き、ほぼ不発に終わったようです。その前日、少なからぬ中国の若者は、反中国の嵐の中、日本で頑張っている同胞の記事を目にすることになったわけです。そして、中国の若者の気持ちを代弁する写真を日本のネットオタクにも発信してくれている。だから、キミたちは学校や職場に留まっていてくれ、と。 その週末に発生したデモの兆候は、10月12日の時点で中国当局が掴んでいたのは確実でしょう。このタイミングで、架空のアイドルangel girlを仕込んでおく。16日・17日に各地で発生したデモが暴力化した状況に接し、翌週の抑えこみ対策の一貫として、angel girlのミッションが重要性を帯びてきたのでしょう。 angel girlの日本での人気ぶりをできるだけ客観的に記事化する必要があったので、19日の段階でさりげなくangel girlが「日本オタクの十大女神」に入ったことを発信。それもその時点では注目度が低かっただろうangel girlを見出しに使うのではなく、林志玲と周冬雨という中国でも注目度が高いアイドルをタイトルに加えて、記事自体の注目度が高まる効果も狙ったと想像できます。 そして、23日・24日のデモの拡大を抑えるため、キミたちの愛国精神はangel girlが代弁してくれているから、ということで、例の写真の発信。 あくまでも私の想像に過ぎませんが、もしこうしたストーリーで対策を練っていたとすれば感心してしまいます。捏造だでっち上げだと非難するだけではなく、日本もこうした情報操作を研究し対応していく必要があると思います。もちろん、これが"反日デモ"対策の一貫だったとして、どれほどの効果をもたらしたかは分かりませんが。
by pandanokuni
| 2010-10-23 22:01
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