中仏文化年の催しの一貫として、北京の中国美術館で開催されていたフランス印象派展に行ってきました。
最終日だったこともあり、美術館前のチケットボックスにはチケットを求める人たちが100mほどの列をなしていました。北京のこの種のイベントでは、関係者に招待券がたくさんばら撒かれ、タダ券を入手した人たちがどんなイベントかもわからずにやってきたりしますし、そうした招待券がダフ屋に回って、門の辺りでダフ屋が定価よりも安い価格で売りさばいたりしていることが多いので、当日券売り場に行列ができることなどあまり見たことはありませんでした。もちろん、この美術館周辺にもダフ屋はいましたが、定価20元のチケットを25元で売っています。この値付けからも、この美術展の人気の高さが伺われました。 チケットを買い求める行列に、ちょっとした違和感を感じました。整然としているのです。警備員が列を整理している様子も無いのに、2列になっていて、車道に届く手前から、直角に曲がって車道に並行に続いています。北京では日常茶飯事の割り込みもありません。後から来た人たちは、整然とした行列を目にして、そのまま最後尾へと向かっていきます。 館内に入ると、また行列に遭遇しました。やはり100人ほどが整然と並んでいます。何の行列かわからないので、通りかかる人たちが「何の行列ですか」と尋ねていきます。解説を聞くことができるイアレシーバーの貸出のための行列でした。 展示室に入ると、印象派の絵画の前に3重4重に列ができています。ところが、とても整然としているのです。 北京に長く住んでいる人であれば、ここの人たちのマナーの悪さはよくご存知のはずです。バス停、スーパーのレジ、銀行、行政の窓口、ファストフードのレストラン....行列が行列になっていない状態、行列になっていたとしても平然と割り込みされたり、異様に接近されたり、真横に並ばれたり、大声で話し合う人たち、ケータイの着メロ....。こうした騒然としたカオスこそ、北京そのもの、と言っても過言ではないでしょう。もちろん最近は、若者や高所得者層を中心にマナーが良くなりつつありますが、お金持ちと高学歴者が多いはずの空港のセキュリティ検査などでも、まだまだマナーの悪い人がいるのです。 美術館という場所柄を差し引いても、この整然さには、何となく違和感を感じました。絵画の前にできた列の最後尾について暫くすれば、何も声を掛ける必要も無く、すこしずつ自然と絵画に近づくことができるのです。つまり絵画の鑑賞を終えた最前列の人たちが、するりとよけてくれて、次の絵画の列の最後尾へと流れていきます。そして2列目の人が最前列に出ます。その後ろやもっと後ろにいた人が、いきなり最前列に割り込んだりせず、一列ずつ前に進むのです。当たり前のことかもしれませんが、この整然さには本当に驚きました。 しかも、ケータイで話す人はもちろん、ケータイを鳴らす人、大声で話す人もいません。 北京ではクラシックコンサートの最中にもケータイが鳴ったりします。鳴るだけなら仕方が無いのですが、その電話を受けて話し始める人もいました。周りの人に気遣って、客席からホールへと出て行きましたが、かなり大きな声で話していました。最近改装した天橋劇場という京劇などを中心に行うホールには、ケータイ・シールドが設置されたそうです。マナー改善が望めないので、ケータイの電波そのものを遮断してしまおう、ということでしょう。確かにこのホールの客席に入ると、ケータイのアンテナは立たなくなってしまいます。 中国美術館にモネやセザンヌを鑑賞に来ていた人たちは、20代の若者中心でした。学生や会社員のカップルが多いようでした。もちろん小学生くらいの子供をつれた家族もいましたが、そうした子供も会場を走り回ったりするような悪ガキではありませんでした。ここが北京か、と驚くほど、整然と印象派の絵画を鑑賞していたのです。日本で開催される美術展でもここまで厳粛か、と思えるくらいにです。 何故こんなにマナーが良いのか不思議でたまりませんでした。20元という入場料を考えると、お金持ちのセレブだけが来ていた、とは言えないでしょう。ただ、北京にもこういう「常識派」の人たちがたくさんいるんだ、ということを思い知らされました。 この中国美術館、カンデンスキーなどロシアの絵画の収蔵が多いのは何となく納得できますが、ピカソの秀作なども常設展で見ることができます。景山公園から程近い好立地ですから、北京観光のコースに加えてみてはいかがでしょうか。 タクシーを奪い合う人たち、赤信号を駆け渡る歩行者、レジに割り込むおばさん、投げ捨てられた紙コップ....美術館を出て王府井に向かう道すがら、いつもの北京に戻っていました。
by pandanokuni
| 2004-11-29 02:04
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