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ウイグル人と漢民族の仲を取り持つ<コカ・コーラ>のような何か
中国からはYoutubeはもちろん、facebookもTwitterもアクセスしにくい状況が続いています。
この状態は、7月の新疆ウイグル族自治区で発生した主として漢民族とウイグル人との暴力沙汰以来、断続的に続いています。

ことの発端は、広東省に出稼ぎにやってきたウイグル人のせいで失業したと思い込んだ(実際にそうだったかもしれませんが)漢民族の工員が、「西北から来た男6人が、工場で漢民族の女性2人をレイプした」というデマをインターネットの掲示板に書き込んだこと。
6月26日、この掲示板をみた漢民族が"事件"の仕返しのため、出稼ぎウイグル人が多く働いている広東省の玩具工場の寮に押し寄せて、ウイグル人を叩きのめすと言う暴動に発展してしまいました。事件は中国国内でもある程度報道され、中国側メディアによると、8人が亡くなり160人が重傷を負ったとされています。

いっぽう、広東の工場寮で大勢の漢民族の攻撃に遭ったウイグル人の映像は、翌日にはYoutubeにアップロードされるとともに、中国の一部動画投稿サイトなどにも転載されます。
こうした動画は、facebookやTwitterを通じて、広東から遠く離れた新疆ウイグル族自治区に居住するウイグル人や、世界中に散らばるウイグル人のコミュニティにシェアされていきました。
そして、同じ民族の仲間が漢民族にボコボコされた映像を目の当たりにしたウイグル人は、やはりfacebookやTwitterを使って"復讐"を呼び掛けていったのでしょう。7月5日深夜、新疆ウイグル族自治区の中心都市ウルムチで、例の暴動が勃発するのです。

新疆ウイグル族自治区の中国帰属は、古く漢や唐の時代にまで遡る問題で、共産党政権以降の事象だけを取り沙汰すべきでは無いと思っています。資源、宗教、人権侵害など様々な問題が指摘されていますが、やはり民族間の対立が諸問題の根源ではないかと思います。

私の同年代の中国人実業家・Aさんが北京で過ごした大学時代のお話です。
1980年代半ばのこと、Aさんの通う映画系の大学には音楽やダンスの学科もあり、他の大学よりも多くのウイグル族学生がいましたが、普段はほとんど交流も無く、ウイグル族の学生はウイグル族だけでつるんでいました。いっぽう満州族、朝鮮族、ミャオ族など、漢民族以外の"少数民族"の学生は、Aさんたち漢民族としばしば行動を伴にしていました。
Aさんの友人が、当時としては非常に高価なステレオ・ラジカセ(ステレオ・カセットテープ・プレイヤー)を入手したとのことで、漢民族の仲間8人が、学生寮の友人の部屋に集まりました。
そして、マイケル・ジャクソンの『スリラー』の海賊版カセットテープを大音量で再生し、踊り始めました。ディスコなどなかなか通うことのできなかった当時の中国の地方出身の学生たちが、学生寮の一室をディスコ代わりにして大騒ぎを始めたわけです。
そのうち、階下のウイグル族の学生がクレームにやってきました。「うるさくて勉強できないので、止めてくれないか。」と言う、ごく常識的な要求でした。けれども、Aさんとその漢民族の友人たちは、音楽とダンスを続けました。
すると、階下のウイグル族の学生が仲間3人を連れてクレームにやってきました。漢民族の学生は「分かった、対応する。」と言いつつも、「ウイグル族の言うことなど聞いてたまるか」という雰囲気で、引き続きダンスで盛り上がっていました。
しばらくすると、今度は階下のウイグル族の学生が10人程のウイグル族の仲間を連れて、またクレームにやってきました。「何度言ったら静かにしてくれるんだ!!」。マイケル・ジャクソンに浮かれていた漢民族学生が「仲間を連れてくるなんて卑怯じゃないか!!」と筋の通らない言いがかりをつけたので、ウイグル族学生の一人が"実力行使"に出てしまいました。漢民族学生の当時たいへん貴重だったステレオ・ラジカセを取り上げ、部屋の外に放り投げてしまったのです。
これを合図に、ウイグル族10人対漢民族8人の乱闘が始まりました。双方とも"ヒカリモノ"までは用いませんでしたが、流血の事態となり、駆けつけた大学職員が止めに入りました。

乱闘の参加者全員が空き教室に集められ、主任教官から事情説明を求められました。
ウイグル族の学生は、寮でディスコの如く大音量の音楽とダンスを楽しんでいた漢民族の学生たちを責めました。いっぽう、漢民族の学生は、高価なステレオ・ラジカセを放り投げて壊してしまったウイグル族の暴力性を責めました。
お互いの言い分は平行線のままでしたが、主任教官は"喧嘩両成敗"ということで両者に和解を求め、その証として、双方の代表者(Aさんの友人が漢民族代表、その階下の学生がウイグル族代表)を前に出し、握手を促しました。ところが、双方とも右手を伸ばそうとはしません。
そこで、主任教官は左右に分かれた二民族代表者の間に立ち、一本の瓶入りコカ・コーラを取り出しました。
「それなら、コーラでも飲んで、冷静になりなさい。」と同時に左右から右手が伸びてきてコカ・コーラの瓶を掴み取ろうとしました。その瞬間、主任教官は各民族代表者の右手を掴み取り、強引に重ね合わせて握手に持ち込みました。
かくして、漢民族とウイグル族の争いは、解決を見ることとなったのです。

「当時は、ステレオ・ラジカセと同じくらい、コカ・コーラが希少だったのかなぁ...」とAさんは感慨深そうに思い出話を語り終えました。
ひと財産を築き、いい歳をしたオヤジになった、共産党一党支配には反対で、時には"民主化運動"の片棒を担ぐこともあるAさんではありますが、「ウイグル族はセコイから嫌い」と言っています。漢民族がウイグル地区を支配することこそ"セコイ"(ずるい)と、多くのウイグル人は思っているでしょう。
政治的な問題に深入りするよりもまず、この二民族の間を取り持つ機能こそ必要なんだと思えます。
Aさんのエピソードに登場する主任教官ように、双方の言い分を一応は聞いてあげつつも、最終的には有無を言わさず仲直りさせてしまうような解決方法を模索することこそ現実的なのではないでしょうか。
その主任教官が漢民族だったかどうかは差ほど重要ではなく、むしろ彼が差し出したコカ・コーラのような何か...。いや、誤解を怖れずに申しあげるのなら、双方がシェアできるような(公平なシェアを実現できるか別にしても、共通のインタレストとなり得る)経済の営み、こそ民族間の対立を和解に導くキーエッセンスになるのではないか、と私は思ってしまいました。
by pandanokuni | 2009-08-20 16:50 | 社会ネタ
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