北京の天橋劇場でボニージャックスのコンサートがありました。対外友好協会が主催したこのコンサートは、一般の北京市民には事前にはほとんど知られることがなかったのですが、主催者側の「動員」による40代~60代のおじさん、おばさんと一部日本からのツアー客ででほぼ満席でした。
ボニージャックスが歌った日本の歌は、「いい日旅立ち」を代表とする20年~30年前の流行歌が中心です。主催者側の動員による観客は恐らく知日派が多いとは言え、日本の懐メロが演奏されるたびに、皆知った曲という感じで、口ずさむ人もいて、拍手も一段と大きかったようです。 そもそも、一部の若い人たちを除く北京の一般の人民に、良く知っている日本の歌手や歌やドラマを尋ねると、「山口百恵」だったり、「北国の春」だったり、「おしん」だったりします。 85年に中国随一の全国ネットテレビ・中国中央電視台で「おしん」が放送されたときは、大人気だったそうです。山口百恵と三浦友和の「赤いシリーズ」も中国の多くのテレビ局のゴールデンタイムで放送されました。国産映画がイマイチだった80年代に上映された高倉健のアクション映画は、なぜか現在の20代の若者たちの間でも知名度抜群です。 ところが、90年代に入るとなぜか、日本のテレビドラマや映画や大衆音楽が、中国で大々的に紹介されることがなくなってしまったそうです。もちろん、酒井法子が出演したドラマや「東京ラブストリー」、「一つ屋根の下で」などをかなりの中国人が見ていたようですが、全国ネットのゴールデンタイムで放映されたのではなく、各地区のローカルテレビ局で放映されていたようで、80年代から比べると随分マイナーな扱いになってしまったのです。90年代の日本のアイドルについて言えば、例えばNYのヒップポップチャートをいちいちチェックするような日本の音楽マニアのような日本マニアの中国人で無い限り、北京ではなかなか受動的に接することができるようなものではなかったようです。 2000年代に入ると、日本のドラマや映画はますます地下に潜ってしまいます。「ロングバケーション」を見たという北京の若者は結構多いようですが、台湾から流れてくる海賊版のVCDやDVDで見たのであって、北京のテレビ局では放映されていなかったのです。いまの北京の若者にとって、日本の大衆文化に接することは、70年代の日本の若者がドアーズやザ・フーを愛でるくらいインディーズ路線なのです。 なぜ、テレビ番組や映画や歌やゲームやアニメのような日本の大衆文化が、90年代に入ると中国で紹介される機会が失われていったのでしょうか? もちろん、中国の政策も関連しているでしょう。しかし、知的所有権の侵害を危惧する日本のエンタテイメント業界が消極路線に転じてしまったことが、大きな要因であると断言して良いでしょう。 もちろんビジネスの側面だけで考えれば、放映権料は安いし、スグにコピーされて海賊版にされるし、正規版CDは売れないしで、踏んだり蹴ったりでしょう。でも、このような大衆文化が、中国人民に今の日本を理解してもらう、そして日本をより身近に感じてもらうための優れたツールであることは確かです。韓国と日本の関係も先方の大衆文化開放によって、なんだか良くなった感じがしませんか。 多くの北京人は、いまだに高倉健と山口百恵が日本を代表するスターだと思っているのです。 こうした意味において、2002年に北京工人体育場を5万人の若者で埋め尽くしたGLAYや、2003年に露出量の圧倒的に大きい中国のソフトドリンクのCMに出演した浜崎あゆみは先駆者と言えるでしょう。前者は短期間ではあっても正規版CDを買ってもらうための仕組みを作りましたし、後者は採算を度外視して中国における日本のトップスターとしての存在感をアピールしたからです。
by pandanokuni
| 2004-11-18 01:03
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