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欧米批判の先頭に立っているのは、海外帰国組やネット起業家や国際派インテリ....。
中国ではイギリスやフランスなどで聖火リレーがチベット支持派に"妨害"されたことによって、"ナショナリズム"が盛り上がっています。そして、その矛先はチベット人やチベット独立派から、欧米の国民とメディアに移りました。
欧米の首脳や国民やメディアが、チベットに有利で中国に不利な歪曲した報道を繰り返している、と言うわけです。

大部分の日本のメディアや人々は、こうした"ナショナリズム"の高揚が、中国の報道統制にあると考えるのでは無いでしょうか。中国国内のメディアは国家の統制下にあるため、中国当局に不利な報道はしない。だから、中国国内外で発生している"真実"を知らないし、中国国外のメディアや人々がどのように受け止めているか知らない。現政権に有利な"大本営発表"でしか情報を得られないのだから、そうした"ナショナリズム"が巻き起こる....。
でも、こう考えるのは正しくないと思います。

ナショナリズムの先頭に立つ人たちの多くは"憤青"(憤怒する青年たち、とでも訳しましょうか)と呼ばれますが、私の知る限り、その多くは下手な2ちゃんねらーや日本のネット右翼よりも全方位で情報に接している人たちです。

先日、中国の大手オンライン広告会社のCEOと飲みました。
彼は中国の一流大学を卒業してからアメリカに渡り、ハーバード大学でMBAを取得したのち、とある著名ネット企業の、アメリカ、シンガポール、香港で働き、2004年に中国に戻ってきた、いわゆる"海外帰国組"です。彼は先々週日本にも仕事で来ていて、イギリスやフランスでの聖火リレー抗議行動の報道を日本のテレビニュースやCNNでチェックしてました。毎月のように海外出張に出かけていますし、中国国内に居るときも海外の衛星放送を中国当局のセンサーシップを受けないダイレクト受信しています(主として富裕層を中心に"無許可"のパラボナで海外の衛星放送を受信している家庭は意外と多いのです)。もちろん、中国政府ご自慢の"ネット統制"システムも難なく潜り抜けて情報収集もしているのです。こうした行為自体、中国政府に対する背信行為になるわけですが、結果として彼の祖国に対する想いは深まるばかりです。

まず彼は、「欧米諸国の首脳に"人権"を声高に主張する権利があるのか」と言います。
香港ですら、つい10年ほど前までイギリスの植民地だったではないか、ほんの30年前までアフリカを荒らし続けていたではないか、アジアやアメリカ大陸の先住民を搾取したではないか。全地球的に"人権"の意識が浸透するには時間を要するし、中国もその潮流に逆らおうとはしていない、ただ広大で人口の多い中国には執行猶予の期間が必要なのだ、と。
チベット人の"暴動"については、ダライラマの直接的関与には否定的ながら、亡命政府が豊かな資金力と国際世論を背景に、意図的に動員をかけた、との主張でした。中国国内のチベット人居住地区で起こった"暴動"に参加したチベット人の多くは、敬虔なチベット仏教信徒ではないだろう、と。
その上で欧米の首脳やメディアが、自国の過去の歴史を顧みずに、大衆受けする"人権"というコンセプトを掲げた上で、中国を非難していることには憤慨している、というわけです。
中国には中国のやり方がある。それを一番わきまえているのが、共産党の指導部だとも考えているようです。日本も含めてアジアの国々に真の"民主主義"や"人権思想"が根づくには、まだ時間がかかる。その過渡期として共産党は必要な存在だ、日本の政治の現状をみると共産党の一党支配のほうが、まだマシじゃないかい??
彼は、そんな風に語っていました。

別の中国のネット企業のCOOともこの種の話をしました。彼は89年の"天安門事件"影響を受けて混乱している中国の大学を避け、カナダに留学した組で、いまでは数十億円の資産家でもあります。彼は"天安門事件"のときは中国政府に憤慨したそうですが、いまは欧米の首脳やメディアに憤慨しているそうです....。彼はここ1週間、ネットの掲示板に毎日数百件以上のコメントを書き込んでいるそうです。ま、恐らく"扇動者"の一人なんでしょう。

ふとしたキッカケから日本でお目にかかった、中国の人気作家でもあり女優でりシンガーでもある田原(ティエン・ユエン)さんは、ドイツ・ミュージシャン・Maximilian Heckerの北京公演のゲスト出演の要請を断っことを自らのブログで発表しました。その理由は、ドイツの中国に関する報道が最も偏見に満ちているから、だそうです。
さらに彼女は、フランス資本のショッピング・モール"カルフール"不買運動への"参加"まで表明しちゃいました。彼女のブログによると、いまの中国人がなすべきことは、次の三つ:
1.中国人は一致団結して、困難に遭遇した時にはお互いに理解し助け合うことです。
2.中国製品を支持しましょう、環境保護を支持しましょう、ほんの少しのことから始めればよいと思います。
3.と同時に、もっとしっかり働いて生活を豊かにして、強くなっていきましょう、これが最後の目的です。
彼女も中国で"国際派インテリ"の一人と言われているのです。

週末にははじめとする欧米に抗議するデモが中国各地でインターネットを通じて組織されましたが、少なくとも、彼ら・彼女らの"ナショナリズム"を燃え上がらせたのは、"井の中の蛙のならず者"たちではなく、海外の事情にも通じている"国際派インテリの人たち"だったと言えるでしょう。
中国当局による"情報統制"で、中国側に有利な情報しか得られないから、こういうことが起こる、と言う話では無いように思えます。もちろん、"せんどうしゃ(先導者・扇動者)に導かれたフォロワーの大多数は、国外にも出たことが無く、中国国内のBBSの書き込みや国有メディアの報道にしか接していない人たちであることも事実でしょうけど。

そういえば、靖国神社のこま犬の台座にペンキスプレーで落書きをし器物損壊罪で有罪判決を受け、いわゆるネット"反日家"と言われた馮錦華さんも、日本からの留学帰国組でしたし、帰国後も"全方位"で日本に関する情報を集める努力をしている人でした。
私たちは、聖火リレーの報道の中で、イギリスでも、フランスでも、イギリスでも、タイでも、中国の国旗"五星旗"を振りかざし狂信的に中国を支持する中国人たちを目にしてきたはずです。彼ら・彼女らの中には"中国当局が動員した"頭数も含まれているかもしれません。けれども、海外で暮らす中国人は少なくとも中国国内で暮らす人たちより、オープンに"欧米側"の情報に接しているはずです。
中国における、特に若い世代の"ナショナリズム"の高揚は、単に教育や情報隔離によって生み出されたものでは無いことは確かだと言えるでしょう。

余談ですが、日本では"義和団事件"の再来みたいに報道されつつある今回の"反欧米運動"ではありますが、北京も上海も大多数の人たちはごくフツーの暮らしのままです。オリンピックにも聖火リレーでの抗議運動にも、関心すら示さない"無党派層"が主流であることは、付け加えるべきかと思いました。
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by pandanokuni | 2008-04-19 22:23 | 社会ネタ