<   2006年 05月 ( 6 )   > この月の画像一覧
日中外相会議:麻生さんに万里の長城観光を勧めた李肇星さん。
5月23日にカタールでほぼ1年ぶりに日中外相がお話し合いをしたのですが、中国メディアの扱いはかなり地味目でした。例えば当局系ニュースの定番であるCCTV『新聞聯播』では取り上げられていませんし、新華社のネット版では会談が行われる見込みとの記事を掲載していますが、24日にアップした会談の事後報道を何故かリンクから外してしまいました。人民日報やCCTVのネット版は、のちほど紹介する中国外務省発表の会談内容を論評抜きで"とりあえず"転載しているという感じです。ネット上で検索しても、地方新聞の記事を転載しているポータルサイトや香港・台湾系のサイトが引っかかってくるだけで、よほど関心を持たない中国人で無い限り、日中外相会談があったことすら気づかなかったのではないでしょうか。
そんな状況で頼りになるのが、中国外務省のHPです。中国側がどのように発信しているのか、この際ですから全文を引用しちゃいます。

2006年5月23日夜、カタールの首都ドバイで開催されたアジア協力対話(ACD)第5回外相会議において、中国外務大臣李肇星と日本国外務大臣麻生太郎が会談を行った。

李肇星:「中国政府は一貫して日中友好をたいへん重視しており、"歴史を鑑に未来に向かう"精神で、両国の近隣友好関係の発展に力を尽くしたい。3月31日に胡錦濤主席が日中友好団体の代表者と会談した際に述べた、<中国政府は日中友好を重視し、関係改善に向かう方針と政策の改善を重視する>と言う真剣な発言を私も重視している。現在日中の政治的関係は非常に大きな困難に直面しており、両国国民の利益にも、国際社会の願いや期待にも符合するものではない。中国側は、日本側とともに努力することを望んでおり、両国関係が健康的で安定した発展の軌道に戻ることを推し進めて行きたい。」

李肇星:「近代のあの時代の不幸な歴史を正確に認識し対処して、戦後の日中関係を回復させることこそ重要な政治的基礎だと考える。日本の指導者が第二次世界大戦のA級戦犯が祀られている靖国神社に参拝することは、中国人民の感情を深く傷つけており、日中関係の政治的基礎を損なうものである。できる限り早くこの政治的障害を一掃して、両国関係の現実的課題の改善と発展に取り組むべきだ。」

麻生太郎:「日本も日中関係を非常に重視しており、中国の平和的な成長を歓迎し、両国間の3つの政治的文書の原則に基づき、日中友好関係を発展させていくことを心から願っている。台湾問題において、日本政府は一つの中国の原則を引き続き堅持する。日本側は胡錦濤主席の3月31日の演説の内容を真剣に研究し、両国がこの演説の精神に基づき、いっそう対話と交流をすすめ、相互理解を深め、日中関係の改善と発展のために共同で努力していくことを希望する。」

双方合意:「日中関係はお互いにとって最も重要な二国間関係の一つである。両国関係の改善と発展を推し進めるため、二国間の戦略的対話を強化し、政治的障壁を排除する努力を共同で行う。また、経済交流を更に深めていくべきで、省エネと環境保護などの領域で協力し、お互いの利益を拡大していく。両国国民、とりわけ青少年の友好交流を更に推し進め、相互理解と友情を深めていく。さらに、両国の副大臣(局長)レベルによる安全対話と両軍の交流を引き続き展開し、互いの信頼関係を増していく。」

こんな感じですから、中国のネット上で見られる報道も「靖国参拝問題で、李肇星さんが麻生さんに注文をつけた」みたいな話が主流のようです。

さて、日本政府はこの会談についてどのように発信しているか、外務省のHPを覗いて見ますと、『日中関係総論』については中国外務省の発表に近いのですが、中国当局がスルーしている『東シナ海』『北朝鮮』『アジア大洋州・東南アジア地域協力』『国連改革』についても話し合ったことになっています。
共同通信社が配信した会談の要旨は:(1)靖国参拝 (2)東シナ海の油田 (3)首脳交流 (4)北朝鮮 (5)安全保障 (6)国連改革 から成っていて、日本の外務省が公表した会談内容にほぼ則していることがわかります(山陰中央新報など)。

日本政府の発表や報道を基準に考えますと、中国当局が中国人民にあまり知られたくない会談内容として、東シナ海の油田、北朝鮮、安全保障、国連改革の話題があったことになります。ただし、この中でも、東シナ海の油田の問題については、中国の一部知識人の間で関心が高いようなので、中国外務省のHPでは"両国の副大臣(局長)レベルによる安全対話"と言う表現で一応紛れ込ませているのではないでしょうか。実際、上海交通大学パン・パシフィック研究センター主任王少普教授は日中外相会談関連記事の中で「大きな課題である靖国神社と東海の境界問題の溝が埋まることは無かった」と論評を出しています(新浪網=新快報からの転載)。

いっぽう、中国側の発表にはあって日本側の発表や報道には出て来ない麻生さんの発言が「一つの中国の堅持」です。日本では何に遠慮しているのか知りませんが、ほぼ黙殺。ま、いまさら取り上げる必要も無い話題なのでしょうか、中国政府にとっては重要なポイントなんですね。外国の首脳や外務大臣が中国を訪れると踏み絵のように発言を強いられるのが「一つの中国」の話であって、外国要人との会談を伝えるCCTVのニュース原稿には欠くことのできない"合言葉"になっています。

いずれにせよ、今回の日中外相会談のことを国内的には"おおごと"にしたくは無かった事情が中国政府の中枢にはあったのでは事実でしょう。
こんな中、中国国際放送(CRI)系「世界新聞報」のWeb版が李肇星さんらしい会談でのエピソードを紹介しています。この記事自体、会談の内容の核心について触れるのを避けていて、李さんと日本メディアとのお茶目なやり取りや、日本での報道を中心に構成されているのですが....。
麻生さん:「中国の平和的勃興に期待しています。しかし、国防政策には透明性が必要なはずです。中国の軍事拡大路線を憂慮しています。」
李肇星さん:「だったら、ぜひ万里の長城を訪れてください。あれこそ透明ですよ、しかも見事な防衛線じゃないですか。


外務大臣にあらずとも、こんな風に切り返してくる中国の方々とお仕事をともにしている北京の毎日ではあります....。
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by pandanokuni | 2006-05-30 14:21 | 政治ネタ
鳥インフルエンザが進行中!"悲しきニワトリ"のミュージック・クリップが大ブレイク!?
日本では忘れられつつある"鳥インフルエンザ"ではありますが、中国でも北京などの都市部の人たちの間では警戒心が薄れているようですが、内陸部を中心に新たな感染例が報告されていて、いまだに"現在進行形"ではあるのです。
中国政府の発表ではによると、中国ではこれまでに、12の省や自治区で鳥インフルエンザの発生が確認されていますし、ヒトへの感染は18例で12人が亡くなっています。最近では、4月27日に四川省でヒトへの感染が、5月4日には青海省で鳥への感染がされています。
在中国日本大使館のHPでも、鳥にはむやみに近寄らないで下さい!!などと注意を呼び掛けていて、むやみに鳥と関わらないのが一番の予防策ではあるようですが、すっかりバイキン扱いされているニワトリさんたちが、気の毒と言えば気の毒です。

そんな折、鳥インフルエンザの流行によって、いつ抹殺されてしまうかも知れないという悲しい運命を背負ってしまったニワトリさんの心境をおセンチかつユーモラスに描いたミュージック・クリップのFlash版が、ネット上の若者を中心にブレイクしています。
中央音楽学員出身のZhang Wei (張<「火」篇に「韋」>)率いるクリエイティブ集団"K鈴製造"がプロデュースし、4歳の女の子K Wa(K <「女」篇に「圭」>が歌う、『我不想説我是鶏(ニワトリだなんて、言いたくないわ)』という曲です。2005年の年末にウェブ上で発表された作品ですが、じわりじわりと話題になりました。とにかく、歌声もクリップのニワトリ・キャラも可愛くて"cool"です。ツベコベ説明するより、ミュージック・クリップを見ていただくのが良いと思いますので....(PC Onlineに転載のミュージック・クリップ)。

ちなみに、こんな感じの歌詞になっています(拙訳)。

b0047829_418768.jpgアタシ、清潔ってワケじゃないし
安全とも言えない
だから、ヒト様の疑いの眼差しを拒むことはできないの
閉ざされた鳥小屋で、卵でも数えながら
殺されちゃうのをただ待つだけよ

ヒト様が、私のお肉を食べちゃうことに、異論は無いわ
卵をとり上げられても、大目に見てあげる
でも、汚染だなんて陰口には、とても耐え切れないの
悲しい宿命に眼を腫らしたけど
ヒト様の気持ちも、わからなくは無いのよ


b0047829_4183820.jpgたかが鶏肉、たかが卵じゃない
たかが感染源になっちゃっだけよ
鳥インフルエンザ、アブナイかもね
鳥類だったご先祖様が、恨めしくなっちゃう


b0047829_419123.jpg下の子は死刑執行
上の子は、囚われて実験の餌食
ニワトリでいることは、ヒト様でいることよりもつらいのよ
拷問みたいな毎日に耐えては来たけど
あしたにきっと、ゲームオーバーかも


b0047829_426950.jpgたかが鶏肉、たかが卵じゃない
でも、今じゃ一文の値打ちもないって
お肉やご飯を食べてくヒト様には
ニワトリが居ない世の中なんて、想像もつかないはずなのに


b0047829_4193779.jpgたかが鶏肉、たかが卵じゃない
でも、もう長い命じゃないわ
お肉やご飯を食べてくヒト様には
ニワトリが居ない世の中なんて、想像もできないはずなのに


livedoor版では話題のFlash映像にダイレクトリンクしています。
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by pandanokuni | 2006-05-27 04:23 | ひまネタ
人民日報が産経新聞に噛み付いたぁ、んだけど....
人民日報Web版に「日本の右翼メディアが中国を中傷するスクープはどこから来ているのか?」と言う記事が転載されています。オリジナルは、人民日報系の全国紙「環球時報」5月19日に掲載された記事です。

その"スクープ"とは、産経新聞5月18日付け朝刊に掲載された同社の元中国総局長・古森義久さんの署名入り記事「大量破壊兵器、主要供給者は中国 CIAが断定」(Sankei Web)のことです。
<世界の大量破壊兵器類の拡散に関し、米中央情報局(CIA)の報告書が、中国は大量破壊兵器の「主要な供給者」でイラン、北朝鮮、リビアなどに弾道ミサイルや化学兵器類を売却したと、断定していることが明らかとなった。>
人民日報Web版は、産経新聞の記事のこの部分をほぼそのまま引用しています。

人民日報=環球時報の記事は、そのリード部分も含めて「産経新聞」に対する批判を全面に押し出していますが、実は「共同通信社」が一足早く関連記事を配信しています。5月14日にワシントン発で配信した「北朝鮮制裁 拡大を検討 軍事企業取引の中国金融機関標的 米、圧力強化を模索 6カ国協議頓挫も」(西日本新聞5月15日朝刊の記事)というタイトルの記事です。
<米国が大量破壊兵器の拡散阻止を目的に昨年出した大統領令に基づき、北朝鮮と取引のある中国の複数の銀行に対する新たな制裁措置を検討していることが14日、分かった。米政府筋が明らかにした。>

日本メディアによるこれら2つの"スクープ"は、中国が北朝鮮やイラクなど"ならず者国家"(by ブッシュさん)に対する大量破壊兵器類の主要な供給者であることを"暴いた"ことになります。お膝もとのアメリカのメディアが"スクープ"できなかったアメリカ政府中枢やCIAのネタを、我が日本のメディアのみが"スクープ"できたというのであれば、日本のメディアの情報収集能力たるや、たいしたものであります。
ただしネット上で検索する限り、アメリカの主要紙をはじめ日本以外のメディアは、この"スクープ"の後追い報道すらしていません(5月22日20:00時点)。
中国当局は共同による14日の報道を、5月16日の外務省定例記者会見で否定しています((中国外務省HP)

事の真偽はプロフェッショナルな皆さまにお任せするにして、人民日報=環球時報のこの記事から、面白いと感じた点を書かせていただきたいと思います。
まずは、「共同通信社」に対する依怙贔屓(えこひいき)。この件について最初に報道し、尚且つ中国の銀行に対するアメリカ政府の制裁にまで言及したのは「共同通信社」なのに、叩かれているのは「産経新聞」のほう。共同の報道にも触れてはいますが、産経新聞の記事を批判した後で、「この他にも.....日本ではこのような報道が少なくない。」と言う程度の扱い。
日頃から仲良くしていると、たまに"悪さ"しても大目に見てもらえると言う、中国との付き合い方のヒント(!?)が見え隠れしているように思えてしまいます。

もう一つ、この記事で人民日報の日本のメディアに対する見方が述べられていることです。オリジナルの環球時報の記事を書いたのは日本駐在の人民日報特約記者です。ちょいと長いのですが引用します:

<「産経新聞」は日本の五大全国紙の一つで、発行部数は約219万部。日本国内では右翼系新聞と呼ばれている。中国のネガティブなニュースに対して興味を示し、日本国民の中国に対する不正常な見方を助長し、中国に関する正当な報道は非常に少ない。
「共同」は日本最大の通信社で、新聞社や放送局など59社が共同出資して運営されている。「読売新聞」「朝日新聞」「毎日新聞」など日本の主要な新聞社も共同通信社のユーザーである。日本における影響力はかなり強く、配信情報の採用率は少なくとも5-10%。「共同」は基本的にまだ客観且つ中立的立場であるが、時に中国を批判する記事を配信する。転載率は高く、影響は非常に大きい。

日本では、政府各部門のすべてに記者クラブが存在する。日本の主要メディアは政府各部門の記者クラブに所属し、配属された記者は記者クラブにデスクを置く。独自に取材する部門の記者は、新聞社に出勤しない。彼らの任務はスクープを得ることだ。しかし彼らが国外で"知人"や"情報源"によって掘り出すスクープは、国内ニュースと比べると精度がかなり低い。第一に日本の報道機関の海外駐在パワーは弱く、欧米の主要メディアには及ばない。第二に日本メディアは、いまの政界と同様に"感情的"になっており、常に先入観に影響される傾向にある。日本メディアの中国に関するアメリカ発の報道の多くは、アメリカ人が日本メディアに先陣を切らせてうまく"利用"という一面も排除できない。>
(強調はこのブログの管理人によります)

産経新聞を右翼系と呼ぶ日本人は少ないとは思いますが、全体としてまったくハズしているわけでは無い分析と言えるのではないでしょうか。

最後に(これが一番面白いと思うのですが)、人民日報=環球時報の記事は<日本メディアの中国に対するネガティブ報道の背後でアメリカが糸を引いている>と結んでいます。アメリカの保守的勢力に日本の"右翼系"メディアが担がれていると言っているのです。このこともあながち否定はできませんが、根っこのアメリカを非難せずに"担がれている"はずの日本メディアを批判するあたり、いかにも中国っぽいっと思ったりするわけです。
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by pandanokuni | 2006-05-22 21:11 | 社会ネタ
『798 北京大山子芸術村』、光と影。

b0047829_18301321.jpg北京市街地の北東に『798 北京大山子芸術村』があります。
電子部品などを生産していた『798工場』が衰退してしまい、使われなくなった建物をアーティストに貸し出し、アトリエやギャラリーとして利用されるようになったのです。倉庫跡から発生したニューヨークのSOHOにたとえて、"北京版SOHO"などと持ち上げる人たちもいます(例の"加藤千秋さんによる2003年10月の朝日新聞の記事=asahi.com”)。確かに、中国のアヴァンギャルド系の著名アーティストのにアトリエやギャラリーの多くは『大山子芸術村』にありますし、イタリア、ロシア、フランス、日本などの大手ギャラリーも出店し、高くて広い空間を利用したアトリエでは、世界中のアーティストのパフォーマンスやオブジェ系エキジビジョンが楽しめます。毎年4月から5月にかけて、"798 International Art Festival"が開催されるようになり、海外のアーティスト、画商、メディアなどからも注目されるようになりました。中国を代表する"芸術村"とも言えるでしょう。

ちなみに、中国の社会や文化を国外に向けて積極的に宣伝することがミッションである中国国際放送局(China Radio International)の日本語HPでは、次のように紹介されています:
『大山子芸術村』は、倒産した工場の跡にできたのです。工場の建物はアパートには生かせないことから、ずっと放置されていました。しかし天井まで7メートルの高さや広い窓は、絵画や彫刻の製作には打って付けの理想的な場所です。家賃が安い上、広い工場の敷地だったことで、前衛的な作品を制作するアーチストを引き付け、中国や外国からの画商にも注目されるようになりました。また、アバンギャルドのファッションショーや展示会も行われているので、好奇心に誘われてやって来る北京市民も少なくありません。無名の画家や彫刻家として、物価の高い北京で生活するのは、大変だと思うが、そこの住民の1人は、「ここで一つのアイディアが浮かんでくると、いろいろな面から刺激も集まってくる。これに促されて、現実の成果が生まれてくるのだ。しかし、よその町にいれば、せっかくのアイディアも、いい結果を出せず、最後は跡形もなく消えてしまう」と、『芸術村』での生活を話しています。

この紹介を読むと、798工場跡地の『芸術村』は、無名で貧乏なアーティストの卵を育てるインキュベーターであるかのようです。もちろん、工場の一区切りを安い家賃で間借りして、黙々と創作に打ち込むアーティストもいます。しかし、日本人を含む北京在住の多くの外国人にとって『798 大山子芸術村』は、アーティストの孵化装置と言うよりはエンタテインメント・ゾーンとしてのイメージのほうが強いのではないでしょうか。798工場跡地には、いまやアトリエやギャラリーと同じくらいの数のカフェやバーやレストランやディスコやブティックがひしめき合ってます。4年前と比べると家賃は一ケタ近く上昇してしまったそうです。つまり、無名ながらも才能のあるアーティストが低家賃で創作の場を求めるような環境では無くなってしまったのです。
芸術村が生み出すのは、何も作品としてのアートだけではありません。ニューヨークのSOHOがそうであったように、音楽やダンスなどのPOP Cultureが生み出され、世界に向けて発信されることは、ごく当然の流れとも言えるでしょう。低家賃の倉庫や工場の跡地に無名のアーティストが集ってきて『村』ができ、次第に集客力を増すようになると、より大衆的でより商業的な文化も生み出され、そのエリアの価値が高まっていきます。ビジネスが活性化すればするほど、無名の貧乏アーティストには手の届かないエリアになってしまいます。


b0047829_18312057.jpg2006年2月11日に中国中央電視台(CCTV)ニュースチャンネルで『見失われた798』というドキュメンタリー番組が放映されました(リンクページより番組そのものを視ることが可能です)。


フランス帰りで画家でもあり『798 大山子芸術村』にギャラリーも経営する赫光( Hao Guang)さん、江西省の芸術学院を卒業し赫光さんのギャラリーでアシスタントとして働く肖涛(Xiao Tao)さん、そして甘粛省の田舎から出てきて赫光さんのギャラリーで住み込みの家政婦をしている18歳の女の子・韓雪(Han Xue)さん。番組ではこの三人を4ヶ月以上に渡って取材しています。

赫光さんは突出した才能をもったアーティストでは無さそうで、彼自身のHP上のプロフィールには受賞歴が一つも記載されていません。ドキュメンタリーの中でナレーターは「ギャラリーをオープンして1年、彼の作品はまだ1枚も売れていない。」と紹介しています。彼はギャラリーでパーティを開催したり、外国アーティストの個展などに貸し出したりして、派手な生活を送っています。パーティーでは一人80RMBのチケットを売り、ギャラリーを貸し出す際には作品売価の最低30%を"ピンハネ"する、やり手の"ビジネスマン"として描かれています。

肖涛さんはまさに"アーティストの卵"。地方の美大を卒業後、憧れの『798 大山子芸術村』のギャラリーでバイトしながら創作活動をしようと、夢と希望を託して上京したばかりの彼は、最初のインタビューに対して、「ここには自由がある。こういうライフスタイルに憧れていたんだ。798の中の人たちは自分の好きなことをしている。とてもいい。」と答えます。ところが赫光さんのギャラリーで働くうちに、創作意欲が失せていきます....。
そんな彼の心情を理解できたのは、住み込み家政婦の韓雪さんでした。彼女はパジャマのままキッチンで洗い物をして、"フランス帰り"の赫光さんから「パブリックな空間でパジャマ姿はダメなんだ、わかるかぁ。」とこっ酷く怒られてしまいます。「私には何も無い。卑屈過ぎかも知れないけど、私は醜いし....だからカメラを向けないで」と手で顔を覆う韓雪さん。
彼女と肖涛さんは、赫光さんが居ないのを見計らって、ギャラリーに併設されたバーで、やけ酒をあおります。彼女が「お金が稼げない自分が世界で最も惨めな人間だ」とこぼすと、肖涛さんは「不満は誰にもあるさ。ボクも赫光先生や他のアーティストみたいになれたらと思うけど....。」と慰めます。「キミはまだ18歳。人生80年だから、まだ4分の1だよ....。」
憧れていた『798 大山子芸術村』が、かつて自分が描いていたイメージと違うことに気づき始めた肖涛さんと"可哀相な"18歳の家政婦さんは、「幸せ」とか「お金」が何たるものなのか、語り合ったりするようになります。

b0047829_18305394.jpg
そんなある日、赫光さんが企画する『千年楊柳青』("楊柳青"は伝統画で有名な天津地域の地名)展覧会のオープニング・パーティーが盛大に行われました。赫光さんのギャラリーには不動産ディベロッパーの広告が掲げられています。
スポンサーである不動産ディベロッパーの後ろ盾のよって、オープニングのパーティは華やかなものでしたが、『798 大山子芸術村』を拠点とするアーティストはたった一人しか出席しませんでした。彼は記者のインタビューに答えます:「彼(赫光さん)は不動産ディベロッパーを転がして稼いでいるだけだよ。楊柳青文化のためなんかじゃない。アートのために他人の力を借りたり、ビジネスに便乗しようて、ホント気の毒に思うよ。本当の文化なんて何も育っていない....。」「経済成長は文化の成長に欠かせないものだけど、経済だけが成長して、文化が衰退していくようじゃ、お仕舞いだね。

春節(旧正月)間近のある日、肖涛さんは江西省の実家に帰ることにしました。また北京に戻ってくるかは決めていないそうです。「ぜんぶで6作品。1作品あたり1,000枚印刷して、私のサインを入れる。それで3万RMB。この会社はなかなか儲かる...。」という赫光さんの言葉で、ドキュメンタリーは終わります。


長い紹介になりましたが、もう一点だけ付け加えたいと思います。
798工場はいまも細々と操業を続けています。BMWの新車発表会が行われているギャラリーの隣の建物では、数ヶ月間も給料が未払いのまま働いている工場労働者がいるのです。こうした労働者の声もこのドキュメンタリーは拾っています。
赫光さん「アメリカ人は、798があるから、北京が世界で最も魅力的な都市だと言っているんだよ。」
工場労働者「798が有名になるのは悪くない。けどオレには何の関係も無いよ。げいじゅつなんてわからないからなぁ。皆それぞれさ。オレは息子をどうやって育てていくか、そっちのほうが大事だ。」


b0047829_18314210.jpg赫光さんのギャラリーの前には、ウォールアートとともに「CCTVニュースチャンネルの番組『見失われた798』が我々にとって虚実の報道をしたことに抗議する」と言う文字が踊っています。ギャラリーの中には「事実に反した歪曲報道だ」と言う内容の抗議文も掲げられています。でも、その横で抗議文をプリントしたTシャツが1枚50RMBで売りに出されているのを見ると、"虚実の報道"とは言えないようにも思えてしまいます。

写真(上から):(a)工場空間を利用した絵画の展示 (b)CCTV『見失われた798』 (c)赫光さんのギャラリー前のウォールアート (d)CCTV番組への抗議メッセージ
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by pandanokuni | 2006-05-15 18:35 | 社会ネタ
中国MSNログイン障害の原因は....?
Microsoftが提供するMSNのHotmailやmessengerのユーザーは中国で1,000万人を越えていると言われています。とりわけHotmailはプライベートだけではなく、ビジネスにも利用している人たちが多いようです。比較的大きな企業やお役所にお勤めの方の名刺に意外にもhotmail.comのメールアドレスが印刷されていたりします。ウチの会社の中にも、クライアントとのやりとりにmessengerを利用していて、デスクに居る間は繋ぎっぱなし、と言うスタッフもいます。
今月のはじめくらいから、MSNが中国で提供するmessengerとHotmailのサービスの調子が悪くなっているようで、あちこちから不満噴出です。

さて以前にも何度かご紹介しましたように、中国では特定サイトがアク禁になります。そのほとんどは当局の仕業です。アク禁されるのは、お国のためによろしくないと判断された言葉や内容を含むサイトが中心です。中国大陸以外を本拠地とするウェブがほとんどで、大多数のネットユーザーにとっては気に懸からない程度に、"さりげなく"コントロールしている雰囲気です。ですから「どのサイトが繋がらない」なんてニュースになりませんし、当局もニュースにさせないでしょう。

ところが、さすがに影響が甚大なのか、今回のMSNのアクセス障害に関しては、ニュースサイトや新聞で報道され始めています。
広州の『信息時報』は5月10日付けで、広州の一部のネットユーザーが(5月1日から)10日間もMSNに繋がらないと言う記事を掲載、MSN(中国)の担当責任者は「北京、広州の一部の個人ユーザーがMSNにログインできない問題が発生している。(中略)内外のMSNサーバーは正常に作動しており、大規模の障害が発生していると言う報告は受けていない」と表明したと報道(SOHUの転載記事)。
同日付の北京の『北京娯楽信報』も、5月8日以来、MSN Messengerのログインができないと報道しています。しかも、やはりMSNの担当責任者によると「我々には関係が無い。MSNのサーバーには問題は無い。ローカルのネットワーク設備が主要原因と思われ、現在調査中。」とのこと。つまり、MSNの原因ではないとはっきり言い切っているのです(奥一の転載記事)。"ローカルのネットワーク設備が主要原因"と言うことは、遠まわしに"当局によるアク禁"とでも言っているのでしょうか?

北京や広州の多くのユーザーが、MSNにログインできない、Hotmailの送受信ができない、Messengerが使えない、と言う問題が生じているにもかかわらず、5月12日時点でMSN(中国)のウェブサイトはこのことについて一切触れていません。上述の記事の通り、この障害はMSNと関係ない、と言う態度をとっているようです。

仮にMSN側の問題で無ければ、当局によるアク禁という線が濃厚になりますが、さすが当局とは言え1,000万人以上のユーザーを抱えるサービスをアク禁にする暴挙に出るとは考えにくいお話です(ちなみに発生しているのは、MSNのウェブサイトが見れないという障害ではなく、Hotmailやmessengerへのログインができないという障害です)。しかも当局お墨付きメディアである『人民日報』のネット版が『北京娯楽信報』の転載という形でこのことを報道しているのです。「MSNにログインできない、頻繁に繋がらない。半身不随のサービスにユーザーの不満爆発」というタイトルの記事は、MSNのコメントとは裏腹に、障害の原因をMSNに押し付けているようですし、当局によるアク禁とは関係無い、と主張しているようでもあります。

さてMSNの障害、当局の陰謀なのでしょうか?MSN側の問題なのでしょうか?
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by pandanokuni | 2006-05-13 00:17 | 社会ネタ
人気番組『超級女声』をめぐる中央と地方、アメリカと中国の対立劇。
GW中、日本で視たテレビ番組で世界の人気番組を紹介していました。人工授精のお相手を探すエンタテインメント仕立ての番組など、日本では無理そうな番組がいくつか紹介され、中国の『超級女声』のことも紹介されていました。「あまりの人気の高さに、中国政府が番組の放送にストップをかけてしまいましたが、最近ようやく再開したという情報です」みたいなことを言っていました。
2004年から始まったこの番組は、そもそも通年企画ではなく、春から夏にかけてのシーズン完結番組なので、"再開"という言い方は正確とは言えません。ただ"中国政府が番組にストップをかけた"という紹介の仕方は、当たらずとも遠からず、と言った感じでしょうか。

2005年は3月19日の広州地区の予選会の模様から放送が始まり、8月26日の全中国決勝戦で一連の放送を終えています。ことしはちょっと始まるのが遅れて4月22日の長沙地区の予選会の模様から放送が始まりました。この番組を放送する湖南衛星テレビチャンネルが4月2日に記者発表を行うまで、ことしは『超級女声』を視ること(参加することが)ができるのか、と気を揉んでいた中国の若者も多かったでしょう。
と言うのも、昨年の異常なまでの人気に反発する"抵抗勢力
"が、番組の継続にいちゃもんをつけていることを、多くの視聴者が感じていたからです。学校をサボって番組に参加しているとか、人気投票のためケータイのメール代の負担が増えたとか、教育上のよろしくない、と言う批判が寄せられるようになったのです。そのうちに2006年は番組の放送を取りやめるのではないか、などとネット上などでも噂されるようになりました。

テレビ番組の管理も行っている中国国家ラジオテレビ映画総局は、ことしの『超級女声』の放送を許可するにあたって、表向きには2つの条件を出したようです。ひとつは「番組の参加者は満18歳以上であること」、もう一つは「人格を傷つけるような審査は行わないこと」。第1の条件により中高生が学校をサボってオーディションに参加する、という心配はなくなりました。これは教育的配慮と言ってもよいでしょう。第2の条件は、オーディション審査員の辛辣な批評に批判が多かったことへの対応と言えるでしょう。中国ですから"人権的配慮"と言うよりは"メンツ的配慮"と言ったところでしょう。
大勢の中国の若者を心配させたものの、ほぼ何事も無かったかのように、2006年『超級女声』は始まったのです。

ところが実際には、"教育上"などと言うキレイごとでは片付かない根深い対立の構造が水面下にあったのです。それは"中央"と"地方"の対立であり、"アメリカ"と"中国"の対立でもありました.....。

『超級女声』を制作・放送している湖南衛星テレビチャンネルは、日本で言えば山形放送のようなローカルテレビ局です。中国ではローカルテレビ局でも複数のチャンネルを持っています。そのうち1つのチャンネルを衛星経由で放送することが許されています。中国都市部ではCATVが普及しています。北京や上海の市街地ではほぼ100%CATV経由でテレビを視ています。CATVは50チャンネルほど放送できますから、CCTV(これだけで15チャンネルあるのですが)や地元のローカル局のほかに、衛星経由で放送している他の地方のテレビチャンネルを放送しているのです。つまり、中国都市部の人たちはCATVを通して、NHKや日テレだけではなく、山形放送や佐賀テレビも視ることができる、という感じです。ローカルテレビ局の番組である『超級女声』が全中国でブームになったのは、こうした事情があるからです。もちろん、人口カヴァレッジとしては圧倒的に大きい農村部ではCATVが普及していませんから『超級女声』を視ることはできないのですが、それでも都市部を中心に4億人はカヴァーできているのです。

中国では全国ネットのテレビ局としてCCTV(中国中央電視台)が君臨しています。そしてCCTVにも『超級女声』と似たような"素人参加番組"があるのです。CCTV2チャンネルで毎週レギュラー放送している『非常6+1』とその特別番組として毎年秋に放送している『夢想中国』です。『超級女声』は日本で言うところの民放的演出なのに対し、CCTVのほうはどちらかと言うとNHK的演出で、ご家族でお楽しみください的"つくり"をしています。『超級女声』の台頭をCCTVは歯軋りしながら見つめていたわけです....。
それでもCCTV(1チャンネルや2チャンネル)は農村部を含めて中国全体の90%以上をカヴァーしています。湖南衛星テレビチャンネルの3倍近いのです。数の上では中国全土を支配していますから、CCTV1チャンネルの午後7時のニュース『新聞聯播』は中国の"世論誘導装置"として相変わらず機能できているのです。ところが広告メディアとしては、購買力の乏しい農村部視聴者を大量に含むCCTVよりは、都市部視聴者の比率が大きい湖南衛星テレビチャンネルのようなローカルテレビ局の衛星チャンネルの価値のほうが高くなってしまいます。広告費を奪われかねないと言う危機感を苛まれたCCTVは、『超級女声』に圧力をかけるべく、世論操作に動き、"監督官庁"に泣きを入れたのでした。
そもそも2001年に衛星を通した放送を始めて以来、湖南衛星テレビチャンネルは視聴率の獲れるドラマなどの番組を次々と送り出してきました(現在はあの「おしん」を大々的にプロモーションして放送しています)。地方のくせに出過ぎた真似をしあがって、と"権威ある"中央のCCTVがちょっかいをかけた、これが"中央"と"地方"の対立の実態です。(参考記事:NetEase「テレビスターショウ、中央と地方の争い」=南方人物週刊からの転載)

ところで『超級女声』と言う番組、実は湖南衛星テレビチャンネルのオリジナルでは無いのです。アメリカのFOXテレビで2002年より放送している『AMERICAN IDOL』という番組の"パクリ"なのです。いや失礼しました、"パクリ"天国と言われる中国ではありますが、湖南衛星テレビチャンネルは"フォーマット"と呼ばれる、番組の企画内容や演出のポイントをFOX TV系の番組プロダクションから、きちんと購入して、それを参考に制作しています。つまりライセンスを得てローカライズしているわけです。片やCCTVの『非常6+1』『夢想中国』は(一応)中国国産のオリジナル番組です。

更に湖南衛星テレビチャンネルには、外資参入疑惑が持ち上がっています。日本もそうですが中国の放送局には外資規制があります。放送局だけではなく番組プロバイダーにも厳しい外資規制があります。表向きはこうした事業に外国企業は参画できないような状況になっているのです。ところが、いろんな"カラクリ"を利用して、実質的には外資が参入しているのです。その"カラクリ"をご紹介するのは自粛しておきますが、例えば『超級女声』の番組フォーマットを供給しているFOX TV系の番組プロダクションが、事業収益に応じてフォーマット料金を得ているとすれば、これは限りなく投資行為に近いと言えるでしょう。
"カラクリ"を使った外資参入は何も湖南衛星テレビチャンネルに限ったことではありません。とりわけアメリカのメディア・グループやその傘下の番組プロダクションあたりが、中国のローカルテレビ局をその"支配下"に治めようと画策しています。もちろんローカルテレビ局側も大きなメリットを期待してのことです。『超級女声』で出過ぎた分、湖南衛星テレビチャンネルが標的にされやすいのですが....。
"アメリカ"と"中国"の対立とも言えるこのネタ、中国のメディアには登場しない貴重な業界の裏話ですので、口外無きように.....。

さまざまなイチャモンに中国国家ラジオテレビ映画総局は屈することなく(!?)、人民的エンタテインメント番組に継続のGOサインを出したわけですが、実際にどの程度の圧力がかけられているかを知るには、8月の『超級女声』本選会の放送を待つしか無いでしょう。昨年よりつまらない演出になっていて、人気も落ちてしまうようでしたら、"中央国粋勢力"の勝利と言うことになるわけです。
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by pandanokuni | 2006-05-08 23:36 | ひまネタ