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日中外相会議:麻生さんに万里の長城観光を勧めた李肇星さん。
5月23日にカタールでほぼ1年ぶりに日中外相がお話し合いをしたのですが、中国メディアの扱いはかなり地味目でした。例えば当局系ニュースの定番であるCCTV『新聞聯播』では取り上げられていませんし、新華社のネット版では会談が行われる見込みとの記事を掲載していますが、24日にアップした会談の事後報道を何故かリンクから外してしまいました。人民日報やCCTVのネット版は、のちほど紹介する中国外務省発表の会談内容を論評抜きで"とりあえず"転載しているという感じです。ネット上で検索しても、地方新聞の記事を転載しているポータルサイトや香港・台湾系のサイトが引っかかってくるだけで、よほど関心を持たない中国人で無い限り、日中外相会談があったことすら気づかなかったのではないでしょうか。
そんな状況で頼りになるのが、中国外務省のHPです。中国側がどのように発信しているのか、この際ですから全文を引用しちゃいます。

2006年5月23日夜、カタールの首都ドバイで開催されたアジア協力対話(ACD)第5回外相会議において、中国外務大臣李肇星と日本国外務大臣麻生太郎が会談を行った。

李肇星:「中国政府は一貫して日中友好をたいへん重視しており、"歴史を鑑に未来に向かう"精神で、両国の近隣友好関係の発展に力を尽くしたい。3月31日に胡錦濤主席が日中友好団体の代表者と会談した際に述べた、<中国政府は日中友好を重視し、関係改善に向かう方針と政策の改善を重視する>と言う真剣な発言を私も重視している。現在日中の政治的関係は非常に大きな困難に直面しており、両国国民の利益にも、国際社会の願いや期待にも符合するものではない。中国側は、日本側とともに努力することを望んでおり、両国関係が健康的で安定した発展の軌道に戻ることを推し進めて行きたい。」

李肇星:「近代のあの時代の不幸な歴史を正確に認識し対処して、戦後の日中関係を回復させることこそ重要な政治的基礎だと考える。日本の指導者が第二次世界大戦のA級戦犯が祀られている靖国神社に参拝することは、中国人民の感情を深く傷つけており、日中関係の政治的基礎を損なうものである。できる限り早くこの政治的障害を一掃して、両国関係の現実的課題の改善と発展に取り組むべきだ。」

麻生太郎:「日本も日中関係を非常に重視しており、中国の平和的な成長を歓迎し、両国間の3つの政治的文書の原則に基づき、日中友好関係を発展させていくことを心から願っている。台湾問題において、日本政府は一つの中国の原則を引き続き堅持する。日本側は胡錦濤主席の3月31日の演説の内容を真剣に研究し、両国がこの演説の精神に基づき、いっそう対話と交流をすすめ、相互理解を深め、日中関係の改善と発展のために共同で努力していくことを希望する。」

双方合意:「日中関係はお互いにとって最も重要な二国間関係の一つである。両国関係の改善と発展を推し進めるため、二国間の戦略的対話を強化し、政治的障壁を排除する努力を共同で行う。また、経済交流を更に深めていくべきで、省エネと環境保護などの領域で協力し、お互いの利益を拡大していく。両国国民、とりわけ青少年の友好交流を更に推し進め、相互理解と友情を深めていく。さらに、両国の副大臣(局長)レベルによる安全対話と両軍の交流を引き続き展開し、互いの信頼関係を増していく。」

こんな感じですから、中国のネット上で見られる報道も「靖国参拝問題で、李肇星さんが麻生さんに注文をつけた」みたいな話が主流のようです。

さて、日本政府はこの会談についてどのように発信しているか、外務省のHPを覗いて見ますと、『日中関係総論』については中国外務省の発表に近いのですが、中国当局がスルーしている『東シナ海』『北朝鮮』『アジア大洋州・東南アジア地域協力』『国連改革』についても話し合ったことになっています。
共同通信社が配信した会談の要旨は:(1)靖国参拝 (2)東シナ海の油田 (3)首脳交流 (4)北朝鮮 (5)安全保障 (6)国連改革 から成っていて、日本の外務省が公表した会談内容にほぼ則していることがわかります(山陰中央新報など)。

日本政府の発表や報道を基準に考えますと、中国当局が中国人民にあまり知られたくない会談内容として、東シナ海の油田、北朝鮮、安全保障、国連改革の話題があったことになります。ただし、この中でも、東シナ海の油田の問題については、中国の一部知識人の間で関心が高いようなので、中国外務省のHPでは"両国の副大臣(局長)レベルによる安全対話"と言う表現で一応紛れ込ませているのではないでしょうか。実際、上海交通大学パン・パシフィック研究センター主任王少普教授は日中外相会談関連記事の中で「大きな課題である靖国神社と東海の境界問題の溝が埋まることは無かった」と論評を出しています(新浪網=新快報からの転載)。

いっぽう、中国側の発表にはあって日本側の発表や報道には出て来ない麻生さんの発言が「一つの中国の堅持」です。日本では何に遠慮しているのか知りませんが、ほぼ黙殺。ま、いまさら取り上げる必要も無い話題なのでしょうか、中国政府にとっては重要なポイントなんですね。外国の首脳や外務大臣が中国を訪れると踏み絵のように発言を強いられるのが「一つの中国」の話であって、外国要人との会談を伝えるCCTVのニュース原稿には欠くことのできない"合言葉"になっています。

いずれにせよ、今回の日中外相会談のことを国内的には"おおごと"にしたくは無かった事情が中国政府の中枢にはあったのでは事実でしょう。
こんな中、中国国際放送(CRI)系「世界新聞報」のWeb版が李肇星さんらしい会談でのエピソードを紹介しています。この記事自体、会談の内容の核心について触れるのを避けていて、李さんと日本メディアとのお茶目なやり取りや、日本での報道を中心に構成されているのですが....。
麻生さん:「中国の平和的勃興に期待しています。しかし、国防政策には透明性が必要なはずです。中国の軍事拡大路線を憂慮しています。」
李肇星さん:「だったら、ぜひ万里の長城を訪れてください。あれこそ透明ですよ、しかも見事な防衛線じゃないですか。


外務大臣にあらずとも、こんな風に切り返してくる中国の方々とお仕事をともにしている北京の毎日ではあります....。
by pandanokuni | 2006-05-30 14:21 | 政治ネタ
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