前?後ろ? - テープ文化とディスク文化
皆さんはビデオやDVDを見ていて、いま見ている場面より未来のほうの場面を見るとき、どう表現しますか?
ううん、言い方が難しいですね...つまり、いま見ている場面が、冒頭から35分だったとします。その後に、例えばTV-CFなど不要な場面(!!...広告業界の者がこれを言っちゃお仕舞ですが....)があるので、冒頭から37分のあたりまで"早送り"してもらいたいとき、リモコンを持っている同居人にどうお願いしますか?
「もっとに送って!」「もう少し前!」とか言うのがフツーではないでしょうか?
反対に、冒頭から35分の場面を見ていて、冒頭から33分あたりの場面をもう一度見直したいときは、リモコンの"巻き戻し"ボタンを押してくれている同居人に、サーチ画面を見ながら:「もうちょっと後ろ!」とお願いするのではないでしょうか?

つまり、見ている場面より未来のほうを「前」、見ている場面より過去のほうを「後ろ」と言うのが一般的だと思います。ビデオやDVDデッキの操作表示でも、日本語の"早送り""巻き戻し"は、英語なら"FWD=Forward"、"RWD=Rewind"または"BWD=Backward"になっていますよね。

さて何でこんな些細なことをブログに書いているかと申しますと、中国語ではどうも逆のようなのです。"早送り"のため日本語ならば「に進めて」と言う場合、中国語なら「後ろに進めて」と言い、"巻き戻し"のため日本語ならば「後ろに戻して」と言う場合、中国語なら「前に戻して」と言います。仕事柄、映像の編集作業に立ち会うことが多いのですが、私の日本語の習慣と逆になっているので、私が中国語でディレクションしてしまうと混乱を招くことが多々あります。
同じ漢字を使っているのに、意味が逆になることに興味を持ってしまいました。

中国語で「前日(前天)」は「きのう」のことではなく「おととい」のことです。現時点より過去に対して「前」という文字を使っています。いっぽう「後日(天)」は「あさって」。つまり、現時点より未来に対して「後」という文字を使っています。
これは日本語にも言えることで、「前日」や「三日前」の「前」はある時点より過去を、「後日」や「一週間後」の「後」はある時点より未来を意味しています。
ですから中国語流に、"巻き戻し"の時に「前に」、"早送り"の時に「後ろに」という言い方のほうが、理に適っていそうで、日本語流の"巻き戻し"の時に「後ろに」、"早送り"の時に「前に」という言い方のほうは、時間概念としての「前」「後ろ」で捉えた場合、正しくないように思えます。

それでも広辞苑でしらべてみると、日本語流の言い方でも間違いではないことが分かりました。
「前(まえ)」には[a]ある時点より早いこと、と言う意味とともに、[b]進んでいく先にあるほう、という意味もあったのです。DVDの"早送り"で使う日本語の「前に」は、[a](=時間概念)ではなく、[b](=運動の方向)の意味なのだと思います。これは英語の"Forward"に近いものを感じます。
一方「後ろ」には[c]順序であとの方、と言う意味とともに、[d]過去、という意味もあるそうです。DVDの"早送り"で使う日本語の「後ろに」は、[d]の意味なのでしょうか....
また、漢和辞典によると「前」と言う文字にはある起点よりみて、まえのほう「後」と言う文字にはある起点よりみて、うしろのほう、という意味があり、どちらの文字とも場所にも時間にも用いるそうです。

b0047829_17291345.gif勝手な解釈ではありますが、"巻き戻し"や"早送り"を、中国では時間概念(時間のベクトル)で捉え、日本では場所概念(位置のベクトル)で捉えている、といえるのかもしれません。
場所(位置)というのは、ビデオテープの中の場所です。日本ではオープンリールやオーディオ・カセットの頃からテープ文化が大衆化して、その後ビデオテープになり、CDやDVDになりました。音楽や映像の再生のとき、リールが回りながらテープが前に進んでいくのが見れたので、"巻き戻し"や"早送り"は、音楽や映像の時間的な前後と言うより、テープの進んでいく方向として捉えたのではないかと推測します。つまりテープの再生位置を基準に、テープが進んでいく方向が「前」でその反対が「後ろ」という言い方が一般化したのではないでしょうか。恐らく、英語の"Forward""Backward"と言う言い方も同じでしょう。
中国にもテープ系はあるのですが、あまり一般化せず、いきなりCD、VCD、DVDのディスク文化が主流になりましました。ですからテープが前に進みながら音楽や映像を再生していく感覚は一般的では無いようです。むしろタイムコード(時間表示)が進んでいく印象のほうが強いので、時間概念で捉えた「前に」「後ろに」という言い方が一般化したのではないでしょうか。

「前」「後ろ」というシンプルな言葉なのに、日本と中国で意味が反対になっている原因を、好き勝手な想像で"テープ"と"ディスク"の文化の違いのせいにしてみました。
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by pandanokuni | 2006-04-20 17:23 | ひまネタ
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