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高倉健さんの『単騎、千里を走る。』は、中国若者の日本人観を変えてくれるか....
高倉健さんの『単騎、千里を走る。』は、中国若者の日本人観を変えてくれるか...._b0047829_17431698.jpg10月に東京国際映画祭のオープニングを飾った張芸謀・監督、高倉健・主演の映画『単騎、千里を走る。』が、いよいよ中国でも公開されます。
病に倒れた民俗文化の研究者である息子の果たせなかった約束を叶えるため、長年の確執を持つ父・高倉健が息子の研究対象の地・雲南省麗江に旅に出ます。中国語を話せない一人の日本人と中国の奥地の人たちとの出会いから"人の優しさ"を再発見し、日本で蔑ろにしてきた家族の大切さを再認識していく、と言うストーリーです。

私が北京に着任した8年前、こちらの人たちに「知っている日本人」を尋ねると、「山口百恵」と並んで「高倉健」「中野良子」の名前が出てきました。1976年に日本で公開され、詳しい経緯は分かりませんが中国でも多くの人たちが観ることとなった高倉健さん主演の『君よ憤怒の河を渉れ』という映画の印象が強く残っていたからです。この映画で健さんは、罠にはめられ無実の罪を着せられた無口な検事役を演じているのですが、無駄口を叩かず試練に立ち向かう真面目な性格の健さんこそが、この映画を観た多くの中国の人たちの「日本人像」になったようです。
いまでも、30代後半より上の都市部の中国人は健さんとこの映画を好意的に記憶しているようです。

監督の張芸謀については、いまさら説明の必要も無いでしょうが、『単騎、千里を走る。』は、『HERO』『LOVERS』のアクション・エンタテインメント路線から、私としては彼の"得意技"だと信じている『あの子を探して』『初恋のきた道』の"人の内面を無理なく描写"路線に立ち戻った感じが強くします。『あの子を...』のウエイ老師よろしく、この映画でもヤン・ヤンという舞踏家の子どもの表情には度肝を抜かれてしまいます。
彼の実質的デビュー作である『紅いコーリャン』をご覧になった日本人は、きっと"反日芸術家"だと思って毛嫌いしちゃうかもしれませんが、私は彼を政治的信条など考慮しないビジネスセンスを持ったアーティストだと思っています。例えば『単騎、千里を走る。』
は、前2作のエンタテイメント路線に少しがっかりした昔からのファンを引き戻すことができる作品になっていますし、前2作で広がった若い張芸謀ファンに自分の"得意技"を見てもらうための作品にもなっていると思うからです。

タイトルの「単騎、千里を走る。(千里走単騎)」は日本人も大好きな「三国志」の中の故事で、京劇などの演目にもなっていますから、ある程度"学のある"中国人なら誰もが知っているでしょう。いわば関羽と劉備の"義理と人情"の物語です。健さんといえば仁侠映画、日本人的にはハマっちゃうのですが、映画『単騎、千里を走る。』に"義理と誠を貫き通す"ある種の"良き"日本人像を中国の人たちに伝える意図で作られたと言うのは考え過ぎでしょう。

この時期、中国では日本絡みの大作が2本公開されます。もう一つは以前ご紹介した『SAYURI』ですが、興業的、いや中国の場合、違法のDVDやネットからのダウンロードも"アリ"ですから「波及力」的には『単騎、千里を走る。』のほうに分があるように思っています。その主な理由は以下の通りです。
(1)張芸謀・監督作品であること。しかも、ほぼ3年ぶりに"得意技"である"人の内面を無理なく描写"路線に回帰していること。
(2)「単騎、千里を走る。」というタイトル。
(3)日本人が、というより、高倉健さんが主演であること。

繰り返しますが、この映画に"良き"日本人像を伝える意図は無いと思います。ただ普遍的な"人の優しさ"は表現されていると思うのです。もちろん、この映画の中でも健さんは"誠実な日本人"として描かれていまが、いまの中国の若者の日本人観がみな"高倉健さん"になってしまうことは危険ですし、実際にもありえないと思います。
一人の日本人が中国の奥地で"人の優しさ"を再認識すると言うプロセスの中で、少しでも中国(人)と日本(人)との心の距離が縮まれば、とは願っています。その点では『SAYURI』よりも期待しています。


『単騎、千里を走る。』
製作:Elite Group (中国映画)
監督:中国人
主演:日本人
舞台:中国(一部日本)
中国公開:05年12月22日(16日より一部先行)
中国上映規模:全国3,000回
日本公開:06年1月28日(05年10月東京国際映画祭で上映)
日本上映規模:約75スクリーン(内東京9)

『SAYURI』
製作:コロンビア映画+ドリーム・ワークス (アメリカ映画)
監督:アメリカ人
主演:中国人
舞台:日本(撮影はアメリカ)
中国公開:06年1月中旬予定
中国上映規模:全国3,000回
日本公開:05年12月9日
日本上映規模:257スクリーン(内東京20)
*興行通信社12月13日付け土日観客ランキングで4位
by pandanokuni | 2005-12-19 18:00 | ひまネタ
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