「ブッシュさんが北京に来るので交通規制が行われます」という脳天気なメールが在華日本大使館から届きました。
ご親切な在留邦人サービスかもしれませんが、北京のあのあたり(ブッシュさんのお宿である国際倶楽部飯店の周辺)はいつも激混みですし、"小物"のお偉いさんが通るたびに北京の目抜き通り(長安街など)は交通管制に遭うのですから、まずは本業の外交をしっかりやってくれ、と思っちゃいます。 19日18:40、李肇星外交部長(外務大臣)が出迎える北京首都空港に、ブッシュさんは無事到着したようです。 ブッシュ訪中を前にして、米中両国の外交の駆け引きは日本のそれよりは見応えがあって、面白いものでした。 さすがネオコン政権、或いは自国の政治的自由に弱点があるのか、アメリカはまず宗教の自由をテーマに揺さぶりをかけようとしたフシがあります。9月中旬に国務省が発表した「宗教の自由」に関する報告書で、懸念される国の一つとして中国を名指ししました。11月9日には訪米したダライラマ14世にブッシュさん自ら会っています。 中国の反撃はある意味一貫しています。さっそく外交部が「ダライラマは単なる宗教人士ではなく、祖国分裂活動を行う政治的亡命者だ。」と反論してました。中国は宗教の自由を保証しているそうです。ですから小泉さんの靖国参拝も「宗教的な行為ではなく、政治的な行為」と言う解釈が成り立つわけです。 次は16日に京都に"立ち寄った"ブッシュさんが反撃をする番です。要約すれば「表現や宗教の自由が保証されている台湾を見習えば、もっと中国は繁栄する」と言うアジア政策演説をぶったのです(要旨=京都新聞Web)。 中国はもちろんスグに、「中国は発展の道を歩みつづけ、人権問題でも大きな進展を得た。中国人民は宗教の自由を含む、民主主義と自由を享受している。国と国は、平等・相互尊重・内政不干渉の原則のもと、人権問題に関する対話を進めるべきだ」反論しました(中国外交部Web:中国語)。ブッシュさんが台湾を持ち上げたのはむしろ逆効果で、中国のほうは自粛していた台湾への武器輸出問題を持ち返すことになっちゃいました。 更に周到に用意していた"隠し玉"を、18日に厳かに実施しました。「胡耀邦元総書記生誕90周年記念座談会」です(新華社Web:中国語)。 胡耀邦さんが亡くなったときに、89年の"騒ぎ"は始まりました。"騒ぎ"を鎮めようと、自ら群衆の中に入りメガホンで学生たちに説得した趙紫陽さんは今年1月に亡くなられました。趙紫陽さんは死んでもなお「一九八九年春から夏にかけての政治風波のなかで趙紫陽同志は重大な過ちを犯した」(by新華社)と形容され、89年に広場に同行した温家宝さんすらお葬式に参列できませんでした。 胡耀邦さんも趙紫陽さんも、世代は違ってもいまの中国民衆のヒーロー的な存在です。こうしたヒーローを賞賛するとしょっ引かれてしまうような国家は、外から見る限り民主主義とは言えない状態でしょう。ですからブッシュさんをお迎えする前に、胡耀邦さんの再評価もやっているよ、と言う姿勢を示そうとしたのでしょう。 これは対外的にある程度の効果があるはずです。ただ中国民衆や知識層が、本気で喜んでいるかと言うと、そうでも無い感じです。胡耀邦さんを持ち上げるようなイベントを組んでおきながら、回想録などの発行は許可されていなかったりしているらしいですし(Yomiuri Online)。 ブッシュさんが一生懸命粗捜しして、ようやく見つけた宗教や表現の自由と言うこの国の"泣き所"ではありますが、この国でそういうことに関心を持つことが可能な人たち(つまり主として都市部のある程度経済的に恵まれた人たち)にとっては、差ほど重要なことでは無いようです。 胡耀邦さんの名誉を回復したかったのは、権力の中枢にありつづけたい胡錦濤さんご本人でしょう。共産主義青年団で可愛がってもらっていたわけですから。そして趙紫陽さんの名誉を何とかしたいと一番思っているのは温家宝さんではないかとも思います。でも江沢民さんが生きている間は、じっとしてるしかない.....私だけではなく、私の周りの多くの中国人がそんな推測をしています。 抽象概念としての民主化より、ど田舎の節度をわきまえないバカな役人を何とかしなければならない、と言うのが、この国の中枢部にもマスコミにも小金持ちにも貧乏人にも共通した問題意識であるような気がしてなりません。 と言う感じで、ここから見ていると訪中前のブッシュさんの"仕掛け"は、中国側の"想定内"だったようで、明日からの首脳会談を有利に進めるための先制パンチは不発に終わってしまったのではないかと思います。 そう言えば、胡耀邦さんと言えば、1986年に当時の日本国首相中曽根さんが「靖国神社公式参拝を取りやめる」と言う書簡を出した相手先だったんですね。 その胡耀邦さんにしても趙紫陽さんにしても、その名誉が回復されるまで、中国の公人にお墓参りすらしてもらえないはずです(こっそり供養している人はいるでしょうけど)。前述の通り、趙紫陽さんのお葬式には良き後輩だった温家宝さんすら参列が許されなかったのです。 このあたりにも、中国が"靖国参拝"を理解し難いという、文化或い宗教的考え方の違いが伺えると思うのですが、いかがなものでしょう。 さて靖国ということで、ようやく登場の運びとなるのが、我らが小泉さん。日本国内での存在感とは裏腹に、外に出るとカゲが薄いですね....。 信念を持っての靖国参拝でしょうが、APECでは韓国がホストだったし、中国のほうが話題性(?)が高いから、他の参加国もどちらかと言うとその二カ国に気を遣って、小泉さんとは仲良くお話しするのも差し控えた様子です。 ノ・ムヒョンさんには日本に行きたくないと遠まわしに言われるし、プーチンさんは大事な領土会談を目前にして小泉さんと近寄りたいと思わなかっただろうし、唯一のお友達ブッシュさんの気持ちは既に中国訪問に向かっていたでしょうから、孤独だったんじゃないでしょうか。 18日のプサンでの記者会見では、BBCの記者にまで"Yasukuni"を突っ込まれるだけでした。APECで孤立状態だった小泉さんのことを新華社Webがシンガポールからの外報として伝えています。日本での報道より客観性があると思えたのは、私だけでしょうか....
by pandanokuni
| 2005-11-20 03:38
| 政治ネタ
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